第9章 終の始まりの鐘が鳴る
(…やめてくれ)
すみれの体からフッと力が抜け落ち、抵抗する様子がなくなった。すみれの瞳はガラス玉のようで、何も映していなかった。
「あれ?急に大人しくなったけど、観念した?」
「それとも、俺達と楽しむ気になったのかな」
男達の複数の手が、すみれのキレイな体に向かって伸びていく。
(……ッッ!!!)
ーーー“もう、ディックはいつもふざけて!”
何故、こんな時に
ーーー“ディックといると、楽しいよ!”
すみれと過ごした愛しい日々が、
ーーー“ねえ、ディック?”
走馬燈のように、頭の中で再生されるのか。
(……すみれ…)
傍観者であるのならば。
助ける義理なんか、無いのはわかっている。
……ーーすみれッ!!!
男達の摩の手が、スローモーションのようにすみれに伸びていく。
さわるな
すみれに、さわるな!!!!!
ディックは無我夢中で、物陰から飛び出した。
ドカッ バキッ
ドサドサッ
一瞬で男達を伸し、すみれから遠く離れた庭園に向かって投げ飛ばした。
(はあ…はあ…ッ)
気がつけば、ブックマン後継者とか、傍観者であることとか。そんなこと、頭の片隅にもなくなっていて。
ただ、すみれが傷つくところを、見ていられなかった。
ただ、それだけだった。
いや、もう遅かった。
「だいじょーぶさ?」
「ディック……っ!!」
ツキンッ
すみれの震えた涙声が、ディックの心を突き刺す。
…ごめん
「怖かったろ、もう大丈夫さ。」
ディックはなるべく優しい声音で、すみれを抱え起こす。すみれは言葉を発しようとするも、唇がわなわな震えるばかりで、何も発することが出来なかった。
ズキンッ
そんなすみれの姿が、ディックの心を今度は鋭く、そして深く突き刺す。
直ぐに助けなくて、ごめんさ…ッ!!!
すみれのそんな姿が痛々しくて、ディックは力いっぱいに抱きしめた。