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49番目のあなた【D.Gray-man】

第9章  終の始まりの鐘が鳴る




「ディック…!!」



すみれの瞳から、一筋の雫が流れる。一度流れてしまった涙は止める術も無く、次々と溢れ出し地面を濡らした。


すみれを離さぬように、求めるように。ディックは更に腕に力を入れて抱きしめる。


「ディック…っ」

すみれはディックの包容に応えるかのように、ディックの背中に腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。

「ッ!」


こんな状況にも関わらず、ディックはすみれのそんな行動がどうしようもなく、嬉しく思ってしまった。

(…最低、さ)

ディックは唇を強く噛みしめる。じんわりと血の味がしたが、そんなことはどうでも良かった。




(俺は…っ)

すみれを助ける義務も、義理もなかった。



(本当は、気づいてた)

ブックマン後継者として不要な事を、ずっとしているって



(始めから、間違ってたんさ…)

俺が、初めてすみれに声をかけた時から。



すみれを、好きになってしまった時から、


間違ってたんさ。


「…ッ」

でも、俺は


どうしようもなく、すみれに恋焦がれている。


苦しい。

しんどい。

切ない。






愛しい。

触れて、体温を分かち合って、すみれのそばにいたい。

笑顔も、泣顔も、怒った顔も、全部。
全部、俺だけのすみれにしたい。

すみれを、幸せにして、守りたい。







すみれが、好きだ。





「…ディック」

ーーーーでも、そんなことは



「ん…?」

ーー叶わない。



「ディックは、何者なの?」






ああ、

やっぱりすみれは。
頭だけではなく、感もいいさね。



ディックはすみれを抱き締めている腕を緩み、すみれの両肩を優しく掴む。




きっと。
俺がこれから起こす行動はブックマンとして、タブーなことになるだろう。
でも、すみれの為ならば。

これが、最初で。


最後。





「知る覚悟は、あるさ?」






ボーン ボーン

ボーン ボーン








午後12時。


仮面舞踏会の終わりを告げる、鐘が鳴り響いた。




それは、別れのカウントダウンの始まりであることを、まだこの時は誰も気づかなかった。
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