第9章 終の始まりの鐘が鳴る
* * *
「……(はあ)」
現在、午後11:45。
仮面舞踏会には私だけ招待され、今は一階のバルコニーにて一人で休憩をしている。
外灯は少なく、庭園の美しさはわからないが、代わりに夜空に瞬く星の煌めきが、一層際立っていた。
(私一人なのだから、仮面は外そ…)
スッ…
すみれのために準備された仮面は、目から鼻にかけて上半分のみを覆う仮面。
すみれの美しい黒髪が映える真赤なドレスに合わせた仮面は、ゴールドに塗られ、宝石が散りばめられ、大きな赤い造花のバラが一輪、存在感を放つように左上につけられていた。
いつもならこんな夜分遅くまでパーティに出席はしないが、自分の…いや、叔父と叔母の屋敷に帰る勇気が、無かった。
屋敷を出る前の、叔父と叔母の会話を思い出す。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
今日の仮面舞踏会は、すみれ1人招待された。
(準備も整ったし、二人に挨拶して行かなきゃ)
ノックをする為、腕を伸ばしたとき
『…あの子は仮面舞踏会で、いないうちに、…』
『そろそろ結婚させて、財産を…』
二人の、話し声が聞えた。
すみれは扉の隙間から漏れる声に、耳を澄ます。
『…もう相続金も無いし、…、嫁ぎ先で…!』
『すみれの親は、アクマの…に、ならなかった…』
一体、何の話?
(私がいないうちに、何をするの?結婚させて財産を得る??)
一番聞き捨てならなかったのが、
(私の両親が、アクマ?悪魔?に、ならなかった…?)
アクマとは、あの悪魔だろうか?
いや、まさか。そんな御伽話なんて…
もっと話し声は聞こえないだろうか。すみれは更に扉に近づこうと、
コツ
ヒールの音を鳴らしてしまった。
『?!、誰だ?!……すみれか、何しておる?!』
叔父と叔母の視線が扉へ向く。
『あ、あの。これから、仮面舞踏会に行くので、挨拶に…』
『!!、早く、行きなさい!!』
『っ』
すみれは逃げるように、屋敷を出て行った。