第9章 終の始まりの鐘が鳴る
あれから自室に戻ったものの、どのように戻ってきたか、あまり覚えていない。
しかし、叔父の書斎に入った痕跡は残してないはずだ。
(…知られるわけには、いかない)
私が知ってしまった、という事を。
(それに…まだ……)
全てが、事実ではないかもしれない。
“危ない事業に手を出した”ーーーーー
(まだ、確実とは言えない。)
そんな淡い期待を抱き、すみれは自分自身を抱き締めるかのように、ギュッと両腕を掴む。
確実ではないのであれば、調べなければ。
しかし、これ以上どのように調べれば良いのか、案が浮かばず行き詰まっている。
ボーン ボーン
振り子時計が、午前12時の鐘を鳴らす。
もう昼食の時間だ。
昼食は叔父と叔母の3人で食べる約束をしている。食欲なんてこれっぽっちもなかったが、断って不思議がられたくない。
「大丈夫、大丈夫…」
いつも通り、振る舞える。
自分自身に呪文を唱えるかのように、何度も何度も繰り返す。そしてすみれは叔父と叔母の元に向かうのであったーーーーーーー
* * *
カチャ カチャ…
すみれは必死にナイフとフォークを動かす。しかし、なかなか食べ物がのどを通らない。
叔父と叔母の会話の内容もあまり耳に入らず、相槌と“yes”を繰り返すばかりだ。
「食事が進んでいないが、食欲がないのかい?」
叔父に指摘され、すみれはハッとする。
「お、お昼に紅茶を、飲みすぎてしまって…」
叔父と叔母の顔を見ることが出来ず、俯いたまま応えてしまった。
「そうなのかい?体調が悪いのかと思ったよ」
「びっくりさせないで、今晩は舞踏会に行くのだから。」
(あ、あれ?そんな話したっけ…)
仮面舞踏会の話題に花を咲かす、二人の顔を見る。
「そうだねぇ。〇〇公爵の招待だから、よっぽどの理由がない限りはねえ。」
この笑顔こそ、仮面なんだろうか。
「仮面舞踏会!趣きがあって素敵じゃない!」
この食事をしている材料は、 資金は
亡くなった 人の、おかげ でーーーーー
「……ッ」
あの光景を、
屍の上に立つ自分の姿を、再び想像してしまった。
吐き気が、した。