第9章 終の始まりの鐘が鳴る
“事業が上手くいってない”
“あなただけアジア系”ーーーーーー
この2つの噂は、真実だった。
こうもアッサリと、事実を知れると思わなかった。正直もうこれ以上、知りたくない事実と向き合いたくなかった。
すみれは重い足取りでフラフラと、書斎の扉へ向かう。
(…本当にショックな出来事は、涙も出ないんだ)
そんなことを思いながら、すみれは扉のドアノブに手をかけ、ふと思い出す。
“危ない事業に手を出した”ーーーーーー
まだ、この噂についてはっきりしていない。
事業の売上を遥かに超える、謎の巨額な振り込み金の記録があったこと。事業とは別の資金のようで、詳細がイマイチであること。
ここまで調べていたことを、すみれはすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
(これ以上知って、後悔するものなんてあるかしら……)
何も、ない。
すみれは再び叔父のデスクに向かい、まだ確認していなかった顧客リストへ何気なく手を伸ばす。
その顧客リストには表紙等に記入がなく、何の事業関係かわからなかった
パララ…
名前がズラッと書かれており、たまにそのページは何人か、または半分ほどの名前が斜線を引かれていた。斜線が引かれているのは、取引が終了でもしたのだろうか。
名前を見てみると、とある1つの名前に見覚えがあった。
「あれ、この名前は?」
以前の、お見合い相手だ
(連絡が疎遠になったと思ってたけど、叔父様の顧客になってたのね)
そんな事を思いながら、顧客名を眺めていく
(あら、この人は。あれ、この人も…?)
すみれは体からだんだん冷や汗が吹き出し始めた。だって、このページに記載されている名前は、どれもこれもーーーーーー
皆、私の元お見合い相手だ
(えっ、一体どうゆうこと…?)
他のページにも目を移す。
そこにはすみれでも知っている、この地の有名な貴族や大きな事業をしている者達の名前が記載されている。
その中で、斜線が引かれた名前に見覚えがあった。
「あれ、この人は…」
数日前に、亡くなっている。
「ッ!?」
地方新聞のお悔やみ欄に、名前が載っていたのをたまたま見かけていた。