第9章 終の始まりの鐘が鳴る
そんなこと、あるわけがない。
叔父と叔母の言葉を思い出す。
“私達は遠い親戚でーーー。”
“直近的な血は繋がってなくても、すみれは養子にさせてもらったから。
もう大事な娘だからーーーーーー。”
そう言われ続けていた。
だから、二人のことは“家族”だと思っていたし、慕っていた。
けれど。この通帳に記載されている“未成年後見人”という言葉が事実ならば、私は…私は………
ガタタッ
すみれはデスクを離れ、壁一面になっている本棚へ駆け寄る。
(どこ?)
住民票でも、戸籍謄本でも良い。
公的機関から発行された、自分の身分がわかるのもを探す。
(どこにある?!)
必死に本棚を探していると、埃だらけの隅っこの方に、家系図らしき古書を見つけた。
(家系図なら、私の名が載っているはず!)
頭から埃を被ろうがお構いなしに、すみれは急いでそれを引っ張りだす。
バサバサッ
すると、古書の間から何か書類が落ちた。拾い上げると、それはすみれが求めていた書類そのものだった。
(これは…!叔父様と叔母様の、それと私の…)
戸籍謄本だ。
(嘘…)
叔父と叔母の戸籍に、養子を迎えた記載が無い。
(嘘よ…)
また、自分の戸籍を見るも、
“柳 すみれ”
もう名乗ることはないと思っていた、両親が健在だった頃の名字のままだった。
(もしかしたら、この書類が古いのかも…?!)
僅かな希望を抱いて確認するも、書類作成日は半年前のものだった。虚しくも、これは決定的な証拠であった。
すみれの中で、ガラガラと何かが砕け散った音がした。
(…ぁぁ、)
(…ああ、そっか……)
(二人の娘だと思ってたのは…)
私、だけ。
(知りたく、なかったなあ…)
すみれは養子に迎え入れられてなど、いなかった。
床に開きっぱなしの家系図に、案の定すみれの名は書かれていなかった。
家系図と戸籍謄本から、叔父と叔母の遠い親戚でもない、すみれは赤の他人である事実を知る。
また、遺産が残された通帳の中身も、とっくの昔に空っぽになっていた事実を知るのは、あと数十分後のことであった。