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49番目のあなた【D.Gray-man】

第8章  前兆


「もっとこう、普通にケーキ食うだけかと思ったのに…」



まさか、手作りとは。



「え、食べるよ?」

何言ってるの?と、すみれはきょとんとした顔で答える。

「そうじゃなくて。バースデーソングとか…それにこれ、手作りだろ?」

ディックは目の前にあるケーキを、改めてまじまじと見る。


「あぁ!…コックに頼めば、もっと綺麗なケーキになるけど、ディックに日頃の感謝を伝えたかったから。
いつも、ありがとね。

お誕生日おめでとう!」

すみれが、本当に嬉しそうに、花が咲いたかのように笑う。

たった、それだけの事なのに



トクン トクン


俺の鼓動は静かに、だけど激しく脈を打つ。

「…っ!俺の方こそ、ありがとな」

それはきっと。
先程の変な早とちりしたり、誕生日を祝ってもらったり、慣れない事があったからさ。



「ううん!…あ、ケーキ取り分けるね!今更だけど、食べれないものある?」

「特にないさ。わさびくらい。」

「わさび?」

「日本の食べ物さ。味が…」

すみれは俺の言葉に耳を傾けながら取り分けたせいか、カットしたケーキはバランスが悪く、皿に載せたら横に倒れてしまった。

「ご、ごめん。上手く切れなくて…」

「だいじょーぶ、さ」

俺の皿には、取り分けた際に横に倒れたケーキと、“HAPPY BIRTHDAY DICK”と歪んだ字で書かれたチョコプレートが乗っていた。

(せっかくのケーキが、ぐちゃぐちゃさ。笑)




もっと豪華だったり、華やかだったりした誕生日を、過ごしたこともある。

逆に何もない誕生日を、過ごしたこともある。



なのに何故、毎年ある誕生日くらいで今年は
こんなにも暖かくて、嬉しくて、切ないのだろう。



俺とすみれは二人で、少しだけぐちゃぐちゃになってしまったケーキを食べる。


スポンジが硬めとか、生クリームが甘めとか
フルーツの酸っぱさとか


いろんな感想が出るが「でも美味しいね」と、笑い合う些細な事が、

こんなにも、幸せだ。







“…○○○、おめでとうーーーーー”

「!」

一瞬。本当に一瞬。

とうの昔に、誰かにこうやって祝われた事があるような気がした。

その顔も、声も、呼ばれた名すらも、思い出せないが。



(…もう、思い出す必要も。ないさね。)
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