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49番目のあなた【D.Gray-man】

第8章  前兆



「…」




俺は無言を貫いている、というより。
安心して気が抜けていた。

「あれ、ディック?そんなに吃驚した?」

すみれは俺の顔を覗き込むも、部屋が暗いため表情まで読み取ることが出来ないようだ。



(………良かったさ、)


俺の勘違いで、本当に良かった。

すみれに危害が及ぶかも、とか。
すみれが怪我するんじゃねえか、とか。


すみれがいなくなるんじゃないか、とか。



頭の中でそれらの状況を思い浮かべたら、一瞬で体中の血の気が引いた。

ーーーーそれは、恐怖、と


また、胸の奥から突然マグマが湧き上がる錯覚も覚えた。


ーーーーー憎悪、だった。




(……本当に、良かったさ)

心から安心したせいか、目頭が熱くなり瞳に水分の膜が張る。

「…ねぇ、ディック。もしかして具合悪いの?大丈夫??」

ちょっと電気付けるね!と、すみれは照明を付けに行った。

「あ、ちょっ!待っ!」

パッ



電気をつけられたと同時に、俺はテーブルにふっつぶしてしまった。

「ディック?!」

(俺の勘違いとはいえ、こんなみっともない顔……見せられないさ)


何も知らないすみれは、俺を心配して駆け寄ってくれる。

「ねぇ!!大丈夫っ?!」

「…く、ねぇから、」

「な、なに?!」

「具合悪く、ねぇから」
顔を上げるも、まだ目頭は熱を帯びている。



(さっきは動揺して、それどころじゃなくなっちまったけど…)

チラッと、ディックは自分の為に作られたバースデーケーキを見る。

(やっぱ、嬉しいさね)


すみれが自分の為にケーキを作り、歌ってもらえるなんて。
先程と打って変わって、口元がにやけるのを堪えた。
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