第8章 前兆
「なんさッ?!」
バッッ!!
ディックは戦闘態勢で身構える。
(照明が落ちるなんて、戦火が及んだか?!
いや、建物の振動等は感じられなかったはずさ!!)
(ジジイがここに居ない今、出来事が起こるさ?!……………不味いッッ!!)
(すみれ!!!!)
ディックは思考を巡らせ、客間の扉へ走りだそうとするーーーーーーーーーーー
「…ハッピバースデー、トゥーユー。
ハッピバースデー、トゥーユー!」
あの有名な(というか誰でも知ってる)バースデーソングを歌いながら、すみれが部屋に入ってきた。
すみれの手元には、灯った蝋燭が刺さった、小さめのホールケーキがあった。
「ハッピ、バァースデー♪ディア、ディックー!」
「……」
すみれは、呆然としてる俺の目の前に、ケーキを置く。
スポンジ生地に生クリームが塗られ、星やハート等の様々な形にカットされたフルーツが、ふんだんに飾られている。
そして、チョコプレートには少し歪んだ字で、
“HAPPY BIRTHDAY DICK”
と、書かれていた。
そのケーキは一目瞭然、手作りであることがわかる。
「ハッピバースデー、トゥーユー!
お誕生日おめでとう〜!!」
「……………おう」
拍子抜けとは、正にこの事であろう。
「あれ、反応薄くない?!あっ!はい、火を消して!」
蝋が垂れちゃう!とすみれに言われるがまま、ディックはフーッと息を吹きかけ火を消す。
「お誕生日おめでとう〜!!」
すみれは一人で、盛大な拍手をしてくれた。