第6章 見直しと壁【原作編(雄英体育祭)】
「君の境遇も君の決心も僕なんかに計り知れるもんじゃない。でも全力も出さないで一番になって完全否定なんてフザけるなって今は思ってる!」
その言葉は紛れもなく緑谷くんの本心だろう。同じヒーローを目指す立場として轟くんに語りかけている。同じ立場になれない自分とはまた違う。
「うるせえ……」
轟くんに付着していた氷が徐々に浸食しているかのように体へ覆っていく。
「だから僕が勝つ!君を超えて!!」
しかしもう一度緑谷くんの攻撃を受けた際に、覆っていた氷も砕け散る。その状況はまるで轟くん自身を表しているようだった。
(‥‥轟くん)
彼の表情が苛立ちから戸惑っているような表情へ少しずつ変化している姿を見て、思わず心の中で彼の名前を呼んだ。緑谷くんの言葉に少なからず影響されているのだろう。
「親父の…力を…」
「君の!力じゃないか!!」
その言葉がまるで決定打になったのか、轟くんの動きが完全に固まっていた。私は祈るかのように両手を握りその光景を見つめていた。
すると、彼の左側から眩しい色の何かが溢れだし、彼の周りを囲い込んでいった。
《こ、これは~!?》
(‥‥‥あ、)
何が起こったのか瞬時に理解した。彼の炎の個性が発動したのだ。騎馬戦とも比べものにならないほどの規模だった。
(きれ、い…)
炎が綺麗というのはお門違いな気がするけど、小さい頃、初めて彼の炎の個性を見せてくれた頃の感想が思わず出ていた。
「勝ちてえくせに…ちくしょう…敵に塩を送るなんてどっちがフザけてるって話だ……俺だってヒーローに…!」
「‥‥!!」
悔しいそうなのとは裏腹に、彼が緑谷くんに見せた表情は今まで見たことないものだった。
(.....笑ったの?)
明確に笑ったという判断は難しいが、複雑そうな感情と共に、口元が緩んでいるのが見えた。緑谷くんもつられて好戦的に笑っているのが見えて、こちらまでその感情が伝わっていた。
轟くんがどう感じ取ったのかはわからない。それでも今この瞬間、彼は色んな重荷から解き放たれているように見えた。
(ああ...)
緑谷くんが轟くんを救い出してくれたのか、その事実に胸がいっぱいになる。彼のこんな顔を見たのはいつぶりだろうか。