第6章 見直しと壁【原作編(雄英体育祭)】
私の言葉に少し考えるように目を伏せる轟くんはどこか答えを求めるようだった。
「‥‥お前の言い分は理解できた。それでも、」
しばらくして発した言葉は重みを感じた。
「俺はこうすることでしか意味を為せない。今はそれ以上考えられない。」
そう話かける轟くんの表情を見つめると、憎しみが先ほどよりも増していて思わず言葉を失った。
「離してくれ」
『‥‥あ、』
「…お前が何と言おうが俺の考えが変わる事はない。」
はっきりとそう言われて握っていた手を離された。彼からの表情からこれ以上関わってほしくなさそうだった。
(私ができる事は…ここまでが限界、かな、)
根本的に彼が抱えてるものを払うにしても、今すぐ心を入れ替える事は難しいだろう。とりあえず自分の意見を聞いてもらっただけでも充分だ。
「轟くん?そろそろスタンバイお願いします」
この体育祭の実行委員らしき人が轟くんの名前を呼んでいるということは、そろそろ彼の試合が始まるのだろう。彼はもうその場を離れようとしていた。
「俺はもう行く。」
『ごめんね、長く引き留めてしまって、』
「‥‥‥‥」
『でも、これだけはわかって、』
次の試合が間もなく再開するとのことで、徐々にボルテージが上がっていく会場の声とは裏腹に、彼の後ろ姿から静かに伝える。
『轟くんのありのままの姿を知って素敵だと思ってくれる人は絶対いるから‥‥』
たとえ私じゃなくても、彼と同じ土俵に立ち、彼の境遇を理解し分かち合える人がきっと現れる。それを知ってほしかった。
『‥‥どうか、無理しないで、』
言葉を続く頃には、彼はもう遠くまで離れる距離にいた。彼の後ろ姿を見送った後は、余韻を感じながらぼんやりと座席へ戻った。
『‥‥ただいま』
「おかえり、もう2回戦始まるよ」
席に戻る頃には、実況のアナウンスが聞こえ始めた。
《2回戦第1試合はビッグマッチだ!1回戦の圧勝で観客を文字通り凍りつかせた男!ヒーロー科轟焦凍!片やこっちはヒヤヒヤでの1回戦突破!今度はどんな戦いを見せてくれるのか!ヒーロー科緑谷出久!》
二人の登場と共に会場は熱気に包まれていた。
《今回の体育祭両者トップクラスの成績!まさしく両雄並び立ち!今!緑谷VS轟!スタート!!》
さあ、試合を見届けよう。