第6章 見直しと壁【原作編(雄英体育祭)】
「‥‥なんでここに」
『ご、ごめんね、もうすぐ試合だよね?』
自分が望んでここにきたとはいえ、実際彼とこうして顔を見て話すのはやはり緊張する。それほど彼と自分には昔にはなかった大きな壁がある。
そりゃそうだろう。ここ最近久しぶりに会話したばかりだ。知り合いとはいえ、色んな意味で気まずくさせているのは、思いを告げて離れてしまった事が少なからず影響しているだろう。
ましてや「仲良しごっこ」と彼からも一線を引かれてしまっている状況で、改めて私にできる事は少ないという事も理解している。
でも今何もしなかったら、私は今後自分を許せないまま、後悔するかもしれない。そんな予感がしている。
私は深呼吸をして、彼に自分の気持ちを投げかけた。
『‥‥轟くん、大丈夫?』
「‥‥」
『試合の時、すごい顔してたから心配で来たの。轟くんにとっては、迷惑かも、しれないけど、』
内心不安になりつつも、彼への視線は外さなかった。彼はずっと無言のまま私を見つめるだけだったが、ようやく口を開いた。
「…お前は、そんな事のためにわざわざここまで来たのか?」
『そんな事、じゃないよ‥‥大事な事だよ。』
そんな事、と言っているのからして、彼は自分では気づいていないみたいだ。彼自身どういう状態で試合に参加しているのかを、
なんとも言えないこの感情が、やがて震えながら声へと現れた。
『‥‥本当はっ、私がこうして話すことに、意味がない事は分かっているの。でも‥‥どうしても話さないといけないと思ったの。』
そう言って無意識に彼の手に触れた。彼の手は冷たかった。先ほどの試合で大量の氷を生成したから?なんだが彼の心を表しているみたいで辛い気持ちになる。
このままその気持ちを持ち続けるつもりなのだろうか。思わず彼の手を握り締める。
『…轟くん、辛い時は誰かに頼って、どうか一人で抱え込まないで…』
私が言えた義理じゃないが、少なくとも今の轟くんは誰かの助けが必要だ。
「お前には関係ないだろ、」
『関係なくても!…お願い!今じゃなくてもいいから!』
若干機嫌悪そうな彼を承知で必死にそう呼び留める。今は難しいかもしれないけど、でも、
『…このままだと、轟くんの心が壊れちゃうよ。』
負の感情の恐ろしさを私は身をもって知っている。