第6章 見直しと壁【原作編(雄英体育祭)】
私の行動に少し驚くエンデヴァーさんだったが、自分の提案に関しては肯定も否定もせず「フン」と言ってはその場を立ち去った。
(どう、思ったのだろう‥‥)
まあたかが高校生で無個性な自分の意見なんて、ヒーローとして貢献しているエンデヴァーさんに比べたら説得力の欠片もないのかもしれないけど…、
(‥‥分かち合ってほしいな)
誰が悪いと決めつけたら多分誰も進めない。一歩進むためには、理解して許容する気持ちが大事だ。たとえどんなに時間がかかるとしても、大変だとしても、今後の関係が改善できたらいいと思う。
そう信じたい。「家族」ならば尚更だ。
(、家族‥か、)
思い浮かべるのは、もう修復できないお母さんとの生活。まだ清算しきれない思いも正直あるけど、家族が壊れてしまった原因の自分には、その事実を受け入れて前に進むしか選択肢はなかった。
(‥‥いけない…感傷的になっていた)
轟くんにはこれ以上辛い思いをしてほしくない。
「あれ、」
『…?』
立ち止まっている自分に驚いている声が聞こえた。そこにいるのは緑谷くんだった。
「えっと…第一種目であった…ヒーロー科の人、じゃないよね…?そこで何を?」
『ご、ごめんなさい。轟くんに会おうと思っていて』
「あ、と、轟くんの知り合い?!」
驚きつつも、緑谷くんは轟くんの控え室を教えてくれた。何かソワソワしている様子の彼は、こうして話していると体育祭で活躍していた時とはまた印象が違って見える。
(不思議な人だ…)
麗日さんしかり轟くんしかり、それほど体育祭にかける思いが強いのだろうと実感する。
『教えてくれてありがとう。次の試合頑張ってください!』
「あ、いや…こちらこそ、」
遠慮がちな彼に軽くお辞儀をしてその場を離れた。轟くんの過去を知った緑谷くんは、どういう思いでこの試合に望むのだろうか、彼の心の中を読むことはできないけど、
…願わくばこの試合の先に、何か答えとなるものが轟くんにあればいいのに、
(‥‥あ、)
轟くんの控え室までもう近くの距離。その瞬間、ドアが開く音と共に轟くんが表れている瞬間を目にした。
『轟くん!』
思わず声を張る自分の声に反応し、こちらを振り向く轟くんは虚を突かれているかのようだった。