第6章 見直しと壁【原作編(雄英体育祭)】
とは思ったものの、
(ここ‥‥控え室だよね、)
到着した瞬間、困った事が起きてしまった。生徒の名前が書いてなかったのだ。
(セキュリティーを考慮しての事なのかな)
これでは轟くんがどこにいるのか全く分からない。一つのドアを順番に開くわけにもいかないし…と思っている中、
『あ‥‥』
遠くでも存在感を放っている、滅多に会う事ない人物と遭遇してしまった。
(エンデヴァーさん…?)
No.2ヒーローであり、轟くんのお父さん。試合を見にいらっしゃったのだろうか。彼の事を思うと少し複雑な気持ちになるのが本音だが、
(挨拶はした方がいいよね‥)
自分の事は知らないかもしれないが、素通りするのは礼儀上失礼な気がした。
『こ、こんにちは。』
「ん?…君は、焦凍と一緒にいた娘か。」
『え?あ、はい…』
言いぶりからして、中学時代の時にチラッとお会いした事を覚えてらっしゃるのだろうか。それは恐縮なことだ。
エンデヴァーさんはしばらく無言でいると断言するかのように言い始めた。
「悪いが、君の事は調べさせてもらった。君を責めるつもりはないが、焦凍との交流はあまりしないでいただきたい。」
『えっ…?』
調べたという言葉は一体どういう事だろう。私が無個性であること?家族構成?どこまで知っているのだろう。
それを考えると少し怖かった。
「あの「仔」はいずれオールマイトも超えるヒーローになる男だ。君が焦凍とどういう関係かは知らんが、到底釣り合わない相手だという事を知らないわけではないだろう。」
『‥‥そ、それは、』
まるで諭すかのよう言い方だ。私が彼と釣り合わない事は否定するつもりはないが、息子に対しての発言がどうしても引っかかった。轟くんへの期待以上にこうなるべきだと強要している気がしたのだ。
どうして?彼は「ありのまま」でも充分素晴らしいのに。
「まあいい。用は以上だ。」
『…ま、待ってください!』
話は終わったと言いたげに素通りしようとするエンデヴァーさんに咄嗟に声をかけてしまった。
どうしても、これだけは言っておきたかった。
『…と、轟くんとの交流はなるべく控えます。でも‥‥彼のありのままの姿を、どうか見ていてくれませんか?』
彼の本心を理解してほしい、と願いながらお辞儀する他なかった。