第6章 見直しと壁【原作編(雄英体育祭)】
心操くんも無事観客席に戻ってきて、軽く会釈をする。特に何の返事もないまま席に着かれた。
「最初から濃い試合ねこれ。」
隣でじっと見ていた理央ちゃんが発した言葉だった。顔からしてリラックスしている様子から完全にお客様気分でくつろいでいる。
『そうだね。すごかった…』
「はーこりゃどんどん盛り上がりそう。次誰だっけ?」
えっと、と言いながら先生から渡された最終種目一覧の紙を見る。次は…轟くんの番だった。それを知った瞬間、少し返答するのに間が生まれてしまった。
「…どうかした?」
『…あ、いや…、轟くんと瀬呂くんだって、』
そうか、もう轟くんの試合が始まるのか。
「あ、確か轟って第1種目からずっと上位にいた奴でしょ?強そう」
『そう、だね…』
「そういえば、沙耶って轟と知り合い?前A組に偵察に行った時、話してたよね?」
『あ、…うん、そ、そうなんだ、』
どう答えればいいのだろう。知り合いで振られた相手ですとは、今の状況からあまり言える事はできなかった。
「ふーん…?」
試合がそろそろ始まる頃合いだった事もあり、その会話は一時待機になった。
《続きましてはこいつらだ!》
《優秀!優秀なのに拭いきれないその地味さは何だヒーロー科瀬呂範太!》
「ひでえ」
《VS予選2位1位と強すぎるよキミ!推薦入学者の実力は伊達じゃないってか!?同じくヒーロー科轟焦凍!》
そうステージ上へ轟くんの姿が現れ、ステージ画面を見た際彼の目つきに思わず体が強張った。
(何…あれ、)
憎しみを強く抱えている顔だった。
「まぁ勝てる気はしね~んだけど…」
《それでは最終種目第2試合レディスタート!》
「つって負ける気もねぇ!」
《場外狙いの不意打ち~!この選択は最善じゃないか!?》
相手の瀬呂くんのテープを轟くんの身体に巻き付き、場外へと引っ張っていく様は豪快な実況も含めて、瀬呂くんが有利であるかのようだ。
でもそれ以上に自分は何も反応しない轟くんが少し怖かった。何かが起きる予感がし、冷や汗が全身を巡ってくる。
「悪ぃな」
その予感が的中したかのように会場が大きく揺れる。そして、目の前には今まで見た事もない規模の氷が会場を覆われていた。
『‥‥は、』
急に起きた出来事に声にならない声が唇から漏れた。