第6章 見直しと壁【原作編(雄英体育祭)】
「何の話だよ、轟くん…僕に…何を言いたいんだ」
「"個性婚"知ってるよな?」
その言葉に思わず背筋がゾッとする。
「超常が起きてから第二~第三世代間で問題になったやつ。実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み母の個性を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。」
彼の過去の話は聞かされていたが、ここまで具体的には知らなかった。彼のウソ偽りのない言葉が頭から離れなれない。自身が個性婚で生まれた存在ということを何の迷いもなく話すこの状況が衝撃的だった。
「鬱陶しい…そんな屑の道具にはならねえ!記憶の中の母はいつも泣いてる。「お前の左側が醜い」と母は俺に煮え湯を浴びせた。」
『…』
彼の声色がより重く苛立っているのを感じた。左目周辺の火傷を包みながら話すその姿を見ると、知っている内容だとしてもやはり心が痛んだ。
「ざっと話したが俺がおまえにつっかかんのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざなくたって…いや、使わず一番になることで奴を完全否定する。」
「…」『…』
彼の言葉にハッとさせられる。順位が上位だとしても浮かなかったのは、体育祭の結果以上にお父さんへの否定が関係していたのだと思い知った。それを知った瞬間、私はただただ悲しい気持ちになっていた。
「おまえがオールマイトの何であろうと俺は右だけでおまえの上を行く。時間とらせたな」
「僕は…!」
話が終わり入口の外へ歩き始める彼へ緑谷くんがようやく口を開いた。
「僕はずっと助けられてきた。さっきだってそうだ。僕は誰かに救けられてここにいる。笑って人を救ける最高のヒーローオールマイト…彼のようになりたい。その為には一番になるくらい強くなきゃいけない。」
そう自分に言い聞かせるように呟く緑谷くん。でも、何かを決心したかのように真正面から轟くんを見つめた。
「君に比べたら些細な動機かもしれない。でも僕だって負けられない。僕を救けてくれた人たちに応える為にも、さっき受けた宣戦布告改めて僕からも。僕も君に勝つ!」
ヒーローを志すものだからこその返しだった。そういう風に答えられる緑谷君はすごいなと思った。それほど緑谷くんからも轟くんと同等の覚悟が感じられた。
そして、彼らの会話が終わった。