第6章 見直しと壁【原作編(雄英体育祭)】
その後何週間は、このシューズをうまく使いこなすための特訓と、基本的な体幹トレーニングとランニングを中心に過ごしていた。
体を動かす事は嫌いではないが、やはり体育祭となるとかなり体力を使うだろうと考え、なるべく体力が衰えないように気を付けていた。食事もなるべく味が濃いものを避けての生活を心得て、万全の状態で挑む必要があった。
体育祭の前日、
「素敵なお花ね。飾っていいの?」
『うん、』
おばあちゃんが入院している大病院へお見舞いに行く。以前に比べると少しやせ細ってしまった彼女が心配になるが、笑顔で明日の事について話した。
「まさか雄英体育祭に我が子が参加できるなんて、夢のようだよ。明日、テレビで応援するからね」
『あ、ありがとう。どこまで出場できるかわからないけど、』
「もっと自信持ちなさいな沙耶、雄英高校に入学して、体育祭に出場するなんて誰にでもできる事じゃないんだから。」
『頑張るよ。』
いまだに自分に自信はないが、応援している人がいる事は自分にとって励みになることでもあった。そして本題に入る。
『体はどう?』
「最近すっかり元気だよ。これも沙耶が頑張ってるおかげだね。」
『よかった。』
いつもお見舞いに来た時に聞いている、日課のような言葉だ。もちろん彼女の本調子は違うかもしれないが、聞くこと自体が大切なのだ。
「そろそろ帰りな。明日遅くなっちゃいけないだろ」
『そうだね。おばあちゃん、あまり無理しないでね。お体に気を付けて』
「わかったよ。」
家に帰ると、シャワーを済まして、ベットに潜る。携帯のアラームを設定したので、後はちゃんと寝るだけだ。
『…』
緊張もあってかすぐには寝れず、私はボーっと携帯を手にしていた。
(お父さん、忙しいのかな)
携帯を見つめながら、通話履歴を見る。私が雄英学校へ入学した時も、体育祭に参加するって言った事も、父は仕事に忙しかった。せめて、リアルタイムじゃなくても、なんかの形で彼の目に映る機会があればいいなと思わざるを得なかった。
海外と日本の時間差は激しい。まして忙しいお父さんにとって時間を作ってもらうというのは酷なものだ。こっちが夜の時はあっちは朝。あまり負担をかけすぎたらよくない。
(…寝よう)
私は自然と目を瞑っていた。