第2章 優しい思い出【過去編】
彼に助けられて以降、結構会う頻度は多くなっていった。私の状況はあまり変わらなかったが、前みたいに理不尽に個性を振舞う男の子たちに出くわす事はなくなった。よほど彼が怖かったのだろう。
彼と一緒にいる時間がとても楽しくて、いつも目立つ白赤色の彼を探していた。どこにいるのかな、そう思うとすぐに彼を見つけた。
『しょうとくん、こんにちは』
「…さやちゃん、こんにちは」
『あれ、その手…』
「‥‥気にしないでいいよ」
手には小さい傷が残っており、腕にも絆創膏が目立っていた。一番最初に会った時はそこまでなかった傷が、ここ最近増えていってる気がする。それが心配だった。
『いたくない?』
「うん、平気。このケガはお父さんとの個性くんれんのせいだから」
『くんれん?個性をつよくするの?』
「…うん、がんばって個性をつよくして、かっこいいヒーローになりたいから」
『!』
ヒーロー、その言葉に強い意志を感じた。彼は何かやるせない思いがあったのか、両手をギュッと握りしめていた。それでどれだけの苦労をしてきたのかが伺えた。
「でも、まだ個性もうまくできないから、もっとがんばらないと‥」
充分がんばっていると思うが、本人的にはまだまだ足りないらしい。悔しそうな顔していた。元気になってほしいと思い、袖にあったハンカチを傷口に当てて、そっと彼の手に巻きつけた。彼はその状況をじっと見つめていた。
『しょうとくんは立派なヒーローになってるよ!』
「え?」
『だってわたしをたすけた時のしょうとくんは、ほんもののヒーローだったもん』
あの時は急な出来事でびっくりしたが、助けを望んだ時に来てくれた焦凍くんは、体はまだ小さいけど自分の目には素敵なヒーローだったの覚えている。自身の言葉に偽りはなかった。
私の言葉に驚いていると、しばらく沈黙の時が続いた。そして深く考えて込むと答えが出たかのように、
「そう、かな」
初めて微笑んだ。それまで笑っていなかった事もあって、口元が緩んで上がっている姿は凄い印象に残った。こんな姿を今後も見ていきたいなと思っていた。
ただ、それ以降、笑っている姿を見る事は、一度もなかった。