第4章 自覚と決着【過去編】
あの頃から季節は冬を過ぎ、春が来そうなこの頃、通りすがりのお店で一際目立つ表記が目に留まった。
「バレンタイン特集」
この時期になると、女性たちの賑わいが感じられる日々だった。綺麗な包装で包んでいるチョコがたくさん売っていた。自分は基本的にこういうイベントみたいな事は傍観している事が多いが、今年は違う。
彼にチョコレートを贈ろうと思う。そして、願わくばきちんと自分の想いを伝えたいと思う。来年の受験の忙しさを考慮しても、今年のバレンタインデイは、私にとって最後のチャンスとも言える。
「お客様?お買い得の値段になってますよ~」
『あ、私は…』
私が立ち止っていたのが気になったのか店員さんから声をかけられた。
『あの、私こういうの初めてなんですけど、どういうチョコが人気だったりするんでしょうか?』
「あら、そうなんですね~ 基本的にこういったピンク色のハート形のチョコとかかわいくて人気ですよ~」
『そ、そうなんですね』
いかにも店員さんらしくおすすめの市販商品をこちらへ見せてくれた。
「後は手作りの生チョコとかも人気ですね~」
『手作り…』
「好きな人に渡すんですか?」
『あ、えっと…は、い』
「じゃあ、断然手作りがいいですよ~愛情こめて作るチョコは何倍もおいしいですよ~」
愛情か‥まあこういうのは誠意で渡した方がいいのだろうと思い、チョコの手作りレシピ本と、チョコの材料をかごへ詰めていく。
「いいですね~きっと喜んでくれますよ」
『あ、いや、そんな…』
「頑張ってくださいね~」
彼の答えはもうわかっているけど、せめて感謝をこめて渡せたらいいなと、心の中で思いながら、ビニール袋に詰めた材料や本を手に家に向かった。
家に着くと早速、生チョコづくりに手にかけていた。鍋に生クリームを沸騰している間、ボウルにミルクチョコを割り入れていると、匂いに誘われおばあちゃんがやってきた。
「いい匂いねぇ~チョコレート?」
『うん、轟くんに渡すの。』
「そう…ついに想いを伝えるのね」
『…うん、』
そう答えると改めて今までの出来事が一瞬にしての脳から通り過ぎていく。ここまで来るのに色んなことがあったんだなぁと改めて思った。
『…がんばるね、』
未だに残っている不安を放り投げるように、笑顔で答えた。