第4章 自覚と決着【過去編】
電話の音を探していると、彼のカバンの中から聞こえている事がわかった。彼の許可なしに取ってもいいものかと考えたが、事態が事態なので無視するわけにもいかなかった。
取るか迷っているうちに、一旦途切れたが、また振動の音が聞こえたため、これは流石に出た方がいいと考えた
『轟くん、ごめんね』
申し訳なさを抱えながら、彼の電話に出ると、一人の女性の声が聞こえた。
「もしもし?焦凍?今日は早く帰れそうだから、帰りに何か買おうと思うんだけど…」
彼の名前を親しげに話す間柄からして、ご家族の方…なのだろうか。どう返事すればいいか戸惑っていたが、一応素直に返した。
『も、もしもし』
困惑の声があちら側から伝わってきた。
「…あれ?ごめんなさい。間違えたかな」
『あ、あってます!と、焦凍さんの電話であってます!』
電話が切れそうになるのを必死に止める。そして、今の状況を説明するべく自己紹介をした。
『あ、あの、申し遅れてすみません。クラスメイトの「一条 沙耶」と申します。』
「ええ?ご丁寧にどうも、姉の轟 冬美です。」
ああ、この人が轟くんのお姉さんなんだ…優しい声音で返答していただいた。
「ところで、焦凍は今隣に?」
『あ、その事なんですが…』
私は今の事情を説明した。体調が悪い彼が門の前で倒れているのを見た事、熱が出ていたこと、そして彼を支えながら部屋まで連れていって現在に至ること。すべて話した。
説明する中でも、お姉さんは「熱?!」とびっくりしながらも真剣に私の言葉を聞いてくれた。
「そうだったんだ…一条さんどうもありがとうね。」
『あ、いえ、私は全然…』
「お薬と体に良さそうなもの買っていかないと‥」
『あ、あの、私何か手伝いましょうか?』
「いいよいいよ!これ以上迷惑かけるわけにはいけないし、」
『…でも』
「心配してくれてありがとうね。後は私が面倒みるから、心配しなくても大丈夫だよ。」
改めて感謝を言われると、そのまま会話は終わってしまった。確かにこれ以上というのは野暮というものだろう。離れる前に彼の顔を覗き込むと、さっきよりは少し穏やかになっていた。
『ゆっくり、おやすみなさい。』
小声でそう呟いて、自身の手拭いを水に濡らして額に乗せてあげた。体が癒える事を祈りながらその場を離れた。