第4章 自覚と決着【過去編】
あの微笑みを見た後、ずっと胸が高まっており、教室に移動する際も、彼の顔をまともに見る事ができなかった。
(どうしちゃったの、私)
よくわからない高鳴りに混乱しつつ、授業を聞いていても、無意識に彼の方へ視線が向いてしまう自分がいた。あの微笑みが嘘かのように無表情な姿に、何とも言えない気持ちになる。
(あれは夢だったのかな、 )
だったら、この高鳴りは何なのだろうか。
授業が終わって家にたどり着くと、おばあちゃんがにっこりと歓迎してくれた。
「どうだったの?」
『え、どうだったって…』
「例の子に決まってるでしょう」
普段の感じとは全然違う事に驚いてしまう。どうしてこんなに彼女は乗り気なのだろうか。
『「おいしかった」って、味は特に問題はなかったよ』
「あらぁ、それはよかったねぇ。」
何か圧を感じるこの視線はなんだろう。期待している眼差しに思わず唾を飲み込んだ。
『…えっと』
改まって緊張する話でもないのに、何故か気持ちが落ち着かない。思えば、彼の家庭内の話で切ない気持ちになったり、最後の彼の表情で心がざわめいたり、いろんな感情が廻っていた。
「彼と何かあったのかい?」
『…あ、いや‥そういうわけじゃ』
どうやら、自分の感情を説明するのに言葉が詰まっていたらしい。彼女は一瞬にして眉をひそめた。
「ごめんなさい。こういう話をするのが久しぶりで、つい舞い上がってしまったわね、」
『そ、そう?』
「ええ、貴方が喜んでいる姿が珍しかったから、つい」
その柔らかい声が安心感を与えてくれた。私はその安心に浸りながら、自分の感情を整理して語った。
『いろんな話をしたの‥‥今まで知らなかった彼を知って、よかったって思った』
改めて話すのは何か恥ずかしいが、今の心情で間違いなかった。
「そうなのね。」
『うん‥‥だから、これからも仲良くしたいって思ったの。』
「あら、それは友達として? 」
『た…ぶん、』
仲良くしていきたい。それは本当だ。でもこの思いが「友達」と片づけるだけのものかというと、正直自分でもわからなかった。それほど今まで感じた事のない感情が自分の中に芽生えていた。
「そう…どういう形であれ、おばあちゃんは応援するから」
今はそういう時期なのよ、とつぶやく彼女の言葉の意味を知るにはまだ早かった。