第4章 自覚と決着【過去編】
彼は昔の話をしてくれた。
5歳の頃から特訓を施された中、父との間に限界を感じ、彼の母が精神的に追い込まれてしまったこと。父と同じ個性である炎が宿る左に衝動的に熱湯を浴びされたこと。顔の火傷はその時にできたもであること。 そして、現在彼の母は精神病院に隔離され、療養生活を過ごしていること。
『‥‥そんな、』
あまりの事に言葉がでなかった。彼は一体どういう思いでこれまで過ごしていたのだろうか。そして、顔の火傷の理由も知らずに、彼の父と相談した方がいいといった自分の行為が許せなかった。
『…そんな辛い環境の中で一人頑張ってきたんだね』
「別に大層なもんじゃねぇよ」
誰も相談する人がいない、そんな中彼はどんな思いで苦しみから耐えてきたのだろうか、それはなんとなく想像できた。
「俺は、アイツを全否定する。そうしないと、お母さんが報われない。」
憎しみや怒り。それが彼の今の原動力になっているのだとしたら、あまりにも悲しすぎると思った。でも、その気持ちを否定する事もできなかった。同じ境遇ではないが、自分も心当たりがあったからだ。
「…おい」
彼の問いかけに、涙を流している自分がいることに気づいた。
「‥‥なんでお前が泣いてる」
『ご、めん』
自分が泣いてどうするんだ、と思いながらも、涙は止まってくれず、彼は珍しく慌てているのが見え、私は必死で涙を拭いた。
『‥‥私は、轟くん自身じゃないから、どれほどの悲しみか分かってあげられない。』
「…そりゃそうだろ」
『それでも、こうやって話してくれてありがとう‥‥』
同情することなら簡単だ。でもそれは、彼にとては失礼に値するだろう。流れで彼の過去について知ることになってしまったが、こうやって話す事で少しでも心が報われたらいいと思った。
「変な奴だな、お前は」
『へ、変?』
「他人の心配する暇があるなら、自分の心配しろ。」
言葉に棘があるような言い方だったが、声色の穏やかさにギャップを感じた。
『…あ、』
ふとした彼の表情が微笑んでいる事に気づき、つい見入ってしまった。思えば、彼がこんな表情するのを見るのはいつぶりだろうか。あの頃以上に自分の胸が高鳴っているのを感じた。
「…どうかしたか」
『い、いや‥何も』
この心臓の速さは何なのだろうか。それに気づくのはもうすぐ先。