第4章 自覚と決着【過去編】
それから、だし巻き卵や唐揚げを挟みながら食べている彼は「うまい」と言ってくれた。それだけで肩の荷が下りた気がした。
「全部お前が作ったのか」
『そうだね…盛り合わせとかはおばあちゃんに手伝ってもらったけど、』
「…」
そうかと答えると、弁当の方にまた俯く彼。おいしく食べてもらえてよかった。そう思っていると、不意に唇に麺つゆの後がついていることに気付いた。
『あ、轟くん、麺つゆが唇に付いてるよ』
「…」
『唇荒れちゃう、』
不意にウェットティッシュを唇に押し付けて拭いていると彼は奇妙なものを見るかのように大きく開いて、こちらを見つめている。どういうことだろうと思った矢先、
『‥‥あっ、』
私は一体何を言ってるんだと思い、途端に顔が火照っていくのを感じた。いくら厚意でやったとはいえ、急に異性の唇に触れるだなんて失礼にも程があった。不機嫌な気持ちにさせてしまっただろうか、
『.....ごっ、ごめんね、馴れ馴れしい事しちゃって…』
素直に謝るしか方法が見つからず、ただ彼の顔色を伺っていた。
「お前、」
軽蔑されただろうか、そう思いながらおそろおそろ彼を見ると、彼の表情が少し柔らかくなっていた。
「お母さんみたいなこと言うんだな』
『おかあさん?』
予想外の言葉だった。そういえば、お互いの家族について詳しく話したことはなかった。
『轟くんのお母さんは‥‥』
ただ、先程の柔らかい表情から一変、すぐに暗い表情に戻っている轟くんの状態を見て、それ以上詳しく聞いていいものかと思い、その先は言えなかった。
でも、すぐに返事が返ってきた。
「病院にいる。もう長年会ってない」
『‥‥え、』
「俺には会う資格がない。俺のせいみたいなもんだからな」
淡々と事実だけ話す彼に、色んな感情が思い起こされる。轟くんの家庭状況は分からないが、この会話だけでも悲惨さが伝わってきた。
『轟くん、』
「悪い、こんな話、聞いても楽しくねぇだろ」
『‥‥そんなことないよ』
「…」
『…』
聞きたいかどうかの問題でもない気がする。彼の答えを待つと、しばらくて彼は言葉を発した。
『俺は...』
そこから先の言葉は、彼の過去の話だった