第12章 存在意義とゆらめき【原作編(仮免)】
『結婚式、ですか?』
つい言葉に詰まりながら問いかける。
父と交際しているということだからいずれそうなるかもしれないと思っていたけど、
そう、なるんだ....
「沙耶ちゃんが私たちのこと理解してもらえるのが嬉しくてね。彼と決めたのよ。」
「ごめん、沙耶言うのが遅くなってしまって」
二人は申し訳なさそうな顔をしつつも、凄く嬉しそうな表情をしていた。
その表情に何も言えなくなってしまった。
『.......そう、なんですね』
「それにね。嬉しいお知らせもあるの」
嬉しいお知らせ?
そう言う彼女はゆっくりとお腹を摩る動作をしていた。
『......え?あ、の......』
「そう、.....沙耶ちゃんあなた将来、お姉さんになるのよ」
お姉さん、
え、
え?
..............妊娠したってこと?
その事実を聞いた瞬間、パリッと何かが壊れた気がした。
「新しい家族が誕生するってとても嬉しいわよね。」
「ああ。今から楽しみだよ。」
何も事前に聞かされなかった私は口がぽかんと空いたまま唖然とする。
(......聞いて、ないよ。)
そんな自分の感情は他所に、彼らは本当に幸せそうな表情をしていた。
「赤ちゃんのことだけどね。思い切ってベビーシッターを雇うことにしたの。私たち二人は仕事が好きだから辞めるのはなんか違う気がしてね。」
「だから、子供の面倒に関してはお前が手伝いに来る必要はないし、安心して学業に励んでくれ」
「そもそも、海外だから沙耶ちゃんが無理してくるのも大変でしょ?気にしなくて大丈夫よ」
どんどん話は進んでいく中、自分は置いてけぼりをずっと食らっていた。
嬉しいことのはずなのに、私は何も答えることはできなかった。
だって、
彼らが望む幸せの先に
自分がいることへのビジョンが全然見えなかったからだった。