第11章 逃走と真実【原作編(合宿/神野)】
いつも堂々としている彼にしては言い淀むなんて珍しい光景だ。さっきまで唇を寄せていた人とは思えないギャップを感じる。
それと同時に、
(......そんなわけ、ないよね)
我ながら自分だけドキドキしていたんだと実感し、哀れな気持ちになった。チクチクと胸の痛みを感じつつも、その感情を理解した上で徐々に冷静になっていく。
(さっきは消毒。それ以上でもそれ以下でもない。....勘違いしない)
そう自分に言い聞かせて、自分から声を発した。
『心配かけてごめんね。次からはこうならないように気をつけるね。』
「.....!あ、ああ。分かったんならいい....さっきは悪かった。」
『....今後気をつけるね。ごめんなさい。私これから先生と面談があるから、今日はもうおしまいでいいかな?』
面談なんてないクセにそんな嘘をついて、彼を笑顔でそう告げる。
何もなかったかのように振る舞いたくて、轟くんがその件に触れても、なにも言わずにフラットに対応する。
「.....わかった。」
『今日は来てくれてありがとう』
そして、意図的の轟くんが部屋から出ていくようの仕向けた。
「じゃあ、学校で」
『...........うん』
学校で、っていうことは彼はまた自分に会おうとしているのだろうか。そんなことを考えながら彼の後ろ姿を背中が見えなくなるまで見つめていた。
(......きっと、特に意味なんてないんだよね?)
消毒という行為として首元に唇を寄せたこと。
彼の行動にいちいち反応していたら私の身が持たない。自分の心を守るためにも何も考えないようにしよう。
(......はぁ、)
再び静かになったこの部屋で私はぼんやりと天井を見つめていた。先ほど触れていた首元の熱がまだ残っている。
(............)
轟くんは関わっていく方法を探したいといってた以上、彼の答えを待機するのが正解なのだろうか。
(1ヶ月か....)
期限的にはもうすぐそこだ。
轟くんの提案がどうなるかわからないけど、どんな提案であれ、乗れる可能性は低いのは変わりない。……でも、
これ以上余計な期待を抱えないためのも、と思いながら心が揺れる自分が嫌だった。