第11章 逃走と真実【原作編(合宿/神野)】
そう呟いた時の表情。
表面上穏やかにしているようにも見えたが、
本心は何も分からなかった。
でも、色々とこうして彼女を話しているうちに、彼女が無事だったんだという事を実感できるようで、とても安心した。
「‥‥お前が、心配だったから。‥‥今はどうか許してくれ。」
『‥‥え?』
「無事で、本当に、よかった。」
『‥‥あ、』
だから、思わず彼女を自分の腕に閉じ込めて抱き締めた。
彼女が無事だったという実感が欲しかったし、
それが何よりも俺は嬉しかった。
(‥‥暖かい、)
適切な温度と、柔らかい感触。
女性特有の体という事を実感しながら、このままずっと離さずにいたいと、
思わず、そう思っていた。
『‥‥心配してくれて、ありがとう。…優しいね。』
「‥‥心配、もある、が」
すっと距離が離れた事に少し寂しさを感じながら、俺は真面目に一条を凝視していた。
『…どう、したの。』
「お前に、色々聞きたかった。‥‥どうして、お前がオールフォーワンと一緒にいたのか、‥‥何があったのか、」
『‥‥あ、』
ちゃんと無事でいてくれたことが何よりだが、
何故ヴィランに捕らえられていたのか、その経緯を知りたかった。
経緯を話す彼女は淡々としていて、話す内容はまるで事故報告書みたいだった。
俺は、具体的に知りたい。
‥‥特に、
ー 一条沙耶、だっけか?
ー守れるといいなァ?後悔しないうちに
あのヴィランの言葉が頭を過る。
アイツに何をされたのか。大丈夫、だったのか。
「‥‥その、継ぎはぎ野郎に、何かされなかったか」
『…え?特に、何も‥‥あ、』
『‥‥え、っと、』
その揺れる瞳を見逃さなかった。
その一瞬の間が俺に焦らせる。
「‥‥なんで、口ごもってるんだ?おい、まさか。何かされたのか!」
『ま、待って。落ち着いて、』
「‥‥落ち着いてられるかよっ!お前が‥連れ去られたって知った身にもなってくれ。」
『…えぇ?』
一条が悪いわけではないのに、思わず焦り故の苛立ちを覚える。
『あ、えっと…大した事はないよ。水かぶされたり、携帯怖されたり…押し倒されたりしたけど‥‥命に問題がなかったんだし、それぐらい、』
「‥‥は?」
何事でもないように語っているその内容が、
とてもじゃないが聞いてて気持ちのいいものではなかった。