第4章 自覚と決着【過去編】
家に帰った後、宿題を早めに済ませて、明日のお弁当に取り掛かった。そばをお湯の入れた鍋で茹でる間、ネギ、麺つゆを準備しながら独り言をつぶやいていた。
『…そばは茹でて、他は何を作ろうかな』
だし巻き卵と唐揚げにしようと思い、材料を準備しながら、これまでの出来事を考えていた。
学校生活はもうすっかり慣れて、勉強も順調に進んでいる。でもいじめが解消できているわけではない。不安が消えてるといえばウソになるが、まだ無事だと思えるのは、轟くんの存在が大きかった。
声も低くなって、以前よりも雰囲気が変わっていたが、根底にある優しさは変わらないままだった。口数が多いわけではないけど、咄嗟に助けてくれたり、心配の言葉をかけたりしてくれる。その気遣いに心救われていた。
だから、こういう形で彼に何かができること自体嬉しかったのだ。
『...明日、どんな顔してくれるかな』
喜んでもらえたら嬉しい。そう考えると頬が無意識に緩んだ。
台所の匂いが部屋に届いていたのか、リビングで休んでいたおばあちゃんが姿を現した。
「何かいいことあったのかい?」
『おばあちゃん、』
「あら、もう夕飯かい?言ったら手伝ったのに」
普段は食事はおばあちゃんと一緒に作ることが多いため、一人で作っている状況に驚いてるみたいだった。彼女は様子を見に台所までこちらまで来た。
『ううん、お弁当作ろうと思ってて』
「えらく早く準備するんだね?しかもかなり量も多いみたいだけど、」
フライパンを片手に支えながら、だし巻き卵を丁寧に回していきながら話した。
『あ、うん、轟くんにも』
「‥‥「轟くん」?」
『知り合いの子にも渡そうと思って』
「まあ、」
私がそう答えると、真剣に聞いていた彼女の表情が和らいでいた。
「その「轟くん」は、沙耶の彼氏なのかい?」
『彼氏‥‥?!』
耳なじみのない言葉に思わず声を荒げ、そっとガスの火を止めた。思わず慌てる私を見守っていていた。
『ち、違うよ、幼稚園の時の知り合いで…』
「あら、残念。でもよっぽどその子が好きなんだねぇ。顔に出ていたよ。』
『、大げさだよ…』
そんな風に考えた事は一度もなかったので、他の人から改めて言われると何か照れくさくなり、しばらくは何も言えなかった。