第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
自分の気持ちとは裏腹に、あっという間に目的地に到着した。
軽く彼女の肩を揺らした。
『‥‥ん、』
そこでようやく深い眠りから覚めたかのように目を開いた。
『ごめんなさい、寝ちゃってた…』
「‥‥‥」
先ほど、自分がしようとした行動がどうしても頭から離れられなかった。
いくら感触がよかったとはいえ、これ以上は駄目だと本能が答えていた。
正気に戻ってよかった。
家の門まで、見送りするために、彼女の後ろについていく。そして、真っ先に見える一軒の住宅地が見えた。
ここで、別れか。
『あ、えっと…』
「‥‥どうかしたか?」
『‥‥‥‥』
「なんだ?」
『ううん、なんでもない。』
何か言いたげな顔をしていたのが気になる。
(‥‥言わない、のは理由があるのか?)
それを考えたところで何も出ないのはわかっているが、
『‥‥じゃあ、私はこれで』
「一条、」
思わず声をかけた。
「言いたい事があったら、ハッキリ言ってもらっていい。」
『‥‥え?』
「何か、言いかけようとしたんじゃねぇのか?」
『それは、』
一条はしばらくしてから、恐る恐ると言った感じで声を紡いでいた。
『‥‥1カ月で答えを出すって、本当?』
それはさっき俺は提示した話の事だった。
『轟くんにとっては結構不利な条件だと思ったから』
「…ああ、その事か」
まあ、自分自身もかなり無茶な話だと思っていたから、聞かされた側からもそう思うか。
『もし、私が納得できなかったら、どうするの?』
「その時は、その時で考える。」
『そう、なんだね』
一条はどこか苦しそうに俺の返答に頷いた。
「お前は気にしなくてもいい。これは俺が勝手にそうしたいって思ってやってることだ。」
『‥‥‥‥』
「それにお前に納得してもらえなかったら意味ねぇだろ。俺はお前に苦しい思いをさせたいわけじゃねぇんだ。」
『‥‥うん』
「今日、短い時間だけど会えて嬉しかった」
『‥‥!』
「じゃあな」
もっと話しておきたいこともあったが、流石に俺に付き合って遅い時間まで過ごしていた彼女に無理をさせるわけにはいかないだろう。
名残惜しい気持ちを抱えながら、軽く挨拶をして車に戻った。
納得してもらえるような答えを見つけると信じて、