第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
そして時間は9時。もう夜も更けようとしていた。
流石にこの時間に一人帰らせるのは危ないと思い、家の車を呼んでもらい、アイツを家まで送り返そうと思った。
俺が住所の指示している間、彼女は無言で隣にいた。
(‥‥1カ月、)
俺はアイツに告げた言葉を自分の中で思い出していた。
1カ月後、アイツを傷つけないで、これからも関わっていく方法を探す。
正直アイツを引き留めるための時間稼ぎにすぎない。
行動しないまま会わないよりはマシになったが、これからが大変だ。
アイツを待たせるわけにはいかないので、1カ月と銘打ったが、1カ月内に見つかるかどうかも分からない話だ。
(‥‥それでも、やるしかねぇ)
たとえ望まれてなくたって救け出す。そう決めたからには、今この問題もある意味、過去の償いをしている自分のスタンスとあまり変わりはない。
アイツとの時間をもう一度取り戻したい。
もしそれを望んでいなかったとしても、アイツが笑っている未来に繋がると思いたい。
これは自分自身のエゴだった。
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一通り、説明を終えて、隣で眠って首だけ横に添っている彼女がいた。
(‥‥‥)
高速道路をくぐり、暗いトンネルを何度も通り抜けていく。その中で、窓越しに薄らと反射する光で、彼女の寝顔が見えた。
寝顔を見るのは、保健室以来、だろうか。
その時も大分疲れていたように思えたが、今回は少しだけ穏やかに見えた。
顔をもっと近くに見るため、距離を近づけた。
手を握った時よりも更に脈が速いように感じた。
心地いいあの感触を味わいたいと思い、ふと彼女の頬を撫でる。
彼女の手と同様に柔らかい。女性の特性だからなのか、それともコイツが特別そうなのか?
そんな疑問の中、気づいたら彼女の唇に視線が向いていた。
普段よりも薄紅色がより際立っていた。
‥‥もし、
もしも、
この唇に自分が触れたら、どうなるんだろうか。
そう無意識に思っている事に気づいた。
(‥‥・・・ッ!)
俺は咄嗟に正気に帰り、アイツから距離を取った。
(‥‥何を考えているんだ、俺は、)
愚かな自分の行動に戸惑いつつも、動悸は収まらなかった。