第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
彼女の脚を支えながら、充血した部分を濯いでいく。
後は、自分が予備で持っている絆創膏で貼って、とりあえず処置は終えた。
ベンチの椅子にゆっくり腰をかけながら、その後は、俺なりにアイツに伝えたい事を伝えた。
まずは謝罪からだ。
過去の出来事とはいえ、あまり良くない態度でいた事の謝罪だ。
それと、言葉を交わす中で、思わず出た言葉もあった。
ー俺は、お前の泣いてる姿を見て見ぬふりはしたくねぇし、お前の笑った顔を近くで見たいと思ってる。
自然とそう発していた。
案の定、一条は好きでもない女子にしてはいけないと忠告していた。
ただ、俺は本当に素直な気持ちを口にしただけにすぎない。
だから、思ったんだ。
自然にそういう気持ちをアイツに抱いているんだとしたら、俺はもしかしたら、一条の事が好きかもしれないって、
でも、彼女は“あり得ない”と答えた。
それに、
ーだって、轟くんは、‥‥私と、こ、恋人みたいな事したいわけじゃないでしょ?
ーほら、‥‥手を、繋いだり、抱き締めたり、そういう事したいって思う?
その事を聞かれた時、すぐ言葉に出なかった。
俺自身が女性をそういう対象で今まで見た経験が薄いので、そこまで考えた事がなかったというのが本音だった。
それは別に一条だけの話をしているわけではない。
(‥‥ん?)
そういえば、
衝動的にアイツについて知りたがっていたり、抱き締めたりしていたような気がする。病院での出来事がまさしくそれだ。
それに今だって、
こうして俺自身が一条に会いたいと思って行動に移している。
(‥‥どうなんだろうな、)
これはアイツの言っている事に含まれるのだろうか。
(‥‥手を繋ぐ、か。)
アイツが言っていた言葉を思い出して、咄嗟にアイツの手に自身の手を重ねた。
急な行動に驚いているのをお構いなしに手のひらをじっと見つめた。
今まで誰かの手を繋ぎたいという感情になったことがあまりないので、こうやって実際試してみた。
小さくて、白い手が、自身の手と触れ合っている。
アイツの温度を感じる。
少しずつ自身の脈が速くなっていくのを感じた。
‥‥一条なら、
手を繋ぐのも悪くない、と思えた。