第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
※轟視点
最初に浴衣を着たアイツを見かけた時、思わず口が動かなかった。
綺麗な化粧、髪も結んでいて、浴衣も相まって何故か美しい生き物かのようにみえた。
だからか、思わず“綺麗だ”と話したい事より先に口走っていた。
どう話したらいいか分からない中、ふと彼女の草履に目がいった。血が滲んでいるのが見えた。
とりあえず、話をする前にそれをなんとかしたいと思って、無意識に彼女を腕の中に閉じ込めた。
だいぶ、パニックになっている様子だったが、その時はそれを気にする余裕は全くなかった。
ただ、移動する中で、肩に腕を回している彼女の様子がちょっと気になってはいた。
治療のためとはいえ、こうして触れ合うという事は、まずなかっただろう。
女性、らしい。小さい体つき。
腕も足も手首も全部自分とは違って細い。
いつの間にか心臓が速度を上げているのを感じた。
(‥‥いけねぇ、)
無駄な事は考えるな。
そう思いながら、静かな公園を見つけた。
充血している部分を水で濯ごうと思い、彼女に許可を得てカバンを借りる。
中には、ハンカチが‥‥二つ種類があった。
彼女はいつもピンク色のハンカチを持っている事が多いのは、知っていた。ただ、もう一つのハンカチが明らかに女性物ではなかった。
黒色だった。
聞いた所によると、それは彼女のものではないらしく、借り物で使ってほしくないとの事だった。
そこに出た名前が“心操”だった。
体育祭で、聞いた名前。それに、保健室でアイツが口にした名前。
同じ普通科、という事で知り合いなのだろう。
(‥‥友達、)
男の、友達。
中学生の頃も幼稚園の頃だって、アイツは男と一緒にいた事はなかった。
いつも、気づけば俺の隣にいて‥‥
だから、俺以外の男の友達がアイツと関わっている事がなんとなく想像ができなかった。
親しい仲、なんだろうか。
そう思った瞬間、得体のしれないモヤっとした感情が心を占めていた。
(‥‥なんだ、これ)
なんだか少し嫌な気分だった。
俺は気分を切り替えたくてハンカチを貰って、水道の方へ向かった。