第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
「悪い、姉さんからだ。」
ご家族からの電話らしい。そっと時間を確認すると、もう9時になろうとしていた。
『う、嘘、もうこんな時間…』
確かに夏祭りの待ち合わせは5時からだったが、もうそんなに時間が過ぎているとは思っていなかった。
明日は幸い休日だが、流石に家に帰らないとまずい時間だった。
「流石にそろそろ家に帰ってこいって言われた。」
『あ、そうだね!帰らないと、』
「送っていく。」
『あ、でも…』
「女性を一人で返すわけにいかないだろ。」
女性、
その言葉だけなのに、すごいドキッとした。
「車、呼んどく。」
『あ!あの、』
「大丈夫だ。家専用のだから、」
家専用‥‥
そ、そうだった…轟くん、すごい豪邸に住んでいたんだった…
なんだが申し訳ない気もするが、今回ばかりはもう遅いし、仕方がない…
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何十分後、こちらへ到着した。
「気をつけろよ」
『あ、うん。』
私の足の件で心配したのだろう。転んだりしないようにゆっくりと中に入っていった。
私が入ったのを確認すると、彼もしっかり横へ座った。
「場所は?」
『一応、ここ。』
私は自身が持っているスマホの地図アプリを開き、場所がどこなのかを見せた。
それに従い、轟くんは運転手さんに指示を出していた。
その姿を横目で見つめながら、今日の事を振り返っていた。
(‥‥こうやって、また話す事になるなんて、)
もう二度と会わないと決めていたのに、いつの間にか会って、気が付いたら普通に会話してしまっていた。
ああ、私も甘いな。
どんな形であれ、彼に会わないようにすることもできたのに…
自分の心の甘さなんだろうか。でも、今回ばかりは会わないといけない気がして、と…自分に言い訳する他なかった。
(‥‥でも、これで後わずか、だから)
残りの1カ月間、
彼は何とか私と今後も関わりを持ちたいと思っているみたいだけど、
彼が出した答えが、どんなものであったとしても‥‥正直、私の心が変わるか?と言われると、多分難しいと思う。
だって彼と関われば関わる程、私の心は過去の自分へと戻っていく。彼の事を好きなあの頃へと、
だから、彼への気持ちを封印するには、会わない方がいい
それしか方法はないんだ。