第4章 自覚と決着【過去編】
『だ、だめだよ。こんな綺麗なハンカチを使うだなんて』
「俺は使わねぇから、丁度いい」
じゃあ何で持っているんだろうと思ったが、私の返答を聞かずに、そのハンカチを床にこすり付けて、床に落ちた食べ物を拾いあげていた。思わず声を上げる。
『い、いいよ!手伝うのはここまでで、』
「どうせ時間がかかるなら、人手があったほうが早く終わる。」
『そ、そうかもしれないけど』
慌ててそう言って止めたが、彼は止める気は一切しなかった。淡々と作業している私たちに他所に、回りはざわめき始め、視線は例の女子グループに向いていた。彼女等の顔が徐々に崩れていく。
「…!あの子が悪いのよ、私は悪くないっ」
彼女は舌打ちをしては、その場を離れてしまった。それにより、先ほどのざわめきはなくなっていた。
『…なんかごめんね、巻き込んでしまって』
「…いや、」
無個性という事で無視されたり、いじめられる事は多々あったため、それには慣れていたつもりだった。ただ、こういう形で彼に迷惑をかけるのは、心苦しかった。
『ハンカチ、洗って返すよ』
「別に気にしなくていい」
『いや…ぜひそうさせて…』
「…それより、」
少し間をおいてから、鋭い視線でこちらを向いて話した。
「なんであいつらに言い返さなかった、 ああいう時ははっきり言ったほうがいいだろ」
『それは…』
尖った言い方だが、彼が言っていることは決して間違ってはいない。どう返せばいいかわからなくなり、一瞬言葉を見失った。
『....』
「....」
しばらく様子を見るかのように彼は無言のままでいたが、私の顔を不意に見た途端、考え込んでは慎重に言葉を重ねようとしていた。
「…気に障る言い方なら謝る。別にお前を責めてるわけじゃねえよ。」
『え、』
「ただあのままだと、またあいつら付けあがるんじゃねぇのか?」
責めているわけじゃない、という言葉に驚く。不器用ながらも気を使ってくれたのが伝わってきた。思わぬ心遣いに、さっきまでの会話が嘘かのように笑いが溢れた。
『、あはは…』
「おい、笑い事じゃねぇだろ」
『…ごめんね、気遣ってもらえるとは思ってなくて』
「は?」
『ううん、なんでもない。』
最初の出会いに比べると、随分雰囲気が変わったなと思っていたけど、本質的な部分は変わっていないんだなと思った。