第4章 自覚と決着【過去編】
“轟”くんの出会いは予想外だったが、それ以外は特に変わることはなかった。そもそも初日に挨拶したきり、あまり会話をする機会がなかった。
ただ流れるままに日常を過ごしていた。できれば平和に過ごしたかったが、自分が無個性である事を自覚せざるを得ない状況は続いた。
「あんた無個性なんだって?」
「無個性って存在するんだ?びっくり~」
環境が変わっても「無個性」という名の差別は変わることはなかった。珍しいものみたいな態度を取っては、ヒソヒソと小声で嘲笑う声が聞こえる。この光景はいつものことだ。
(…気にしない、気にしない)
こんなものだと割り切って心を落ち着かせる。幼稚園、小学校でもこういうことはよくあったものだ。一時期は交流を深めようと思い、自ら積極的に声をかけたり、関わろうとしていたが、そうすればそうするほど逆効果となり、彼らとの関係は悪化していったのを覚えている。
だから私は無理に交流する事はあきらめることにした。
予鈴の鐘の音がし、もうお昼の時間である事を告げていた。自分のカバンから弁当箱を取り出して食べようとすると、ある女子がこっちへ向かってきて、私の机に思いっきりぶつかってしまった。その影響で衝動に耐えれず、弁当箱が床へひっくり返ってしまった。
『…あっ!』
「うわっ、汚いっ」
彼女の顔を見るとしてやったりみたいな顔をしていた。後ろの女子グループがヒソヒソと笑っているのを察するに、これはわざとなのだろう。思わずムッとしたが、まずは落ちてしまった弁当箱が先だ。
『ああ…』
見事にごはんやお味噌汁やおかずがあっちこっちに散らばってしまっている為、原型が保たれていない。流石にこれは落ち込む。
「あら、ゴミはちゃんと片付けてよね~一条さん」
女子グループのリーダーらしき派手目の女子が薄ら笑いながらこちらに視線を送った。こんなことして何の得になるんだろうと思わざるを得なかったが、とりあえず散らばってるものを拾い集めようと手を伸ばした。すると、
「…おい、」
『あ、』
やめろと言わんばかりに、私の手に手を添える轟くんがいた。
「直接掴んだら、手が汚れるだろ」
『でも、』
「これ使え」
そう言って渡されたのは、綺麗なハンカチだった。