第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
『それで、話って‥‥』
「‥‥ああ、それより、」
色んな不安の種が押し付けられようとしている中、彼は何かにハッとした表情を見せた。
「‥‥お前、足、怪我しているのか。」
『‥‥えっ、』
彼に指摘された自分の親指を見ると、結び目の所に滲んだ血が目立っており、さっきよりも傷跡が深くなっているのを感じた。ゆっくり歩いていたとはいえ、やはり無理やり動かした結果なのかもしれない。
『だ、大丈夫だよ。』
「良くねぇ。‥‥座る所を見つけるぞ。」
『‥‥え?』
「話はそれからだ。」
本当に大丈夫なのに、と言おうとしたら、彼の手が私の背中と太ももを支えて抱き上げていた。
『‥…え?え?!な、何やって、』
「足、怪我しているだろ。無理するな。」
『え?!』
「いいから、肩につかまってろ。落ちるぞ。」
いや‥‥これってお姫様抱っこっていうものじゃ‥‥って頭がパニックになりながらも、フラフラになって落ちそうになるのも目に見えたので、必死に彼に肩を回した。
轟くんの表情は何も変わらない。というか、冷静すぎてむしろ怖いぐらいだ。
『ど、どうしてこの態勢?』
「背負ってもよかったが、こっちの方がお前も重心を置きやすいだろ。」
『い、いや‥‥私、重い、から…』
「別に大丈夫だ。」
いくら反論しようとしても、もう彼は私を担いで歩いてしまっているから、暴れる訳にもいかず大人しくするしかなかった。
(話し合いをするってだけだったはずなのに、どうしてこんな事に‥‥)
正直、さっきの話し合いをしようとしたときよりも、今この状況の方が緊張している。
彼の肩に掴まざるを得ない状態なので、自分の予想以上に密着しており、とてもじゃないが穏やかにいられない。顔も近いし、
彼は私をちゃんと支えつつ、どこか座れる所はないかと目配りをしているようだった。周りの人たちがコソコソと話しているように感じたが、正直それを気にしている余裕がない。
彼の腕、彼の体温、彼の手、彼の体格
「男の子」だと、意識せざるを得ない状態だ。
(‥‥おちつけ、)
心拍数が早まる。彼は私に気遣ってこうしているだけだ。とは思いつつも、疑ってしまいそうだった。
(‥‥私に告白されたって事、分かってるのかな。)
彼の優しさが苦しくなる瞬間だった。