第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
その後、私たち二人で話せるように察知してくれた理央ちゃんが、耳打ちで「撒けなくてごめん」という言葉を残して、その場を離れてくれた。
心操くんはしばらく無言で見つめては、「じゃあまた後で」とだけ言葉を残して行った。
しばらくお互い沈黙が続いた。
正直、自分から彼に言える事は何もない。ああいう形で退散してしまった私に非があるのも理解しているが、あの日、私は伝えたい気持ちをありのまま全て吐露した。
「会わない」という気持ちに嘘はないし、もうこれ以上彼の「善意」を私のために割いてほしくない。
『‥‥‥‥‥‥』
私は彼の動向をじっと見つめる。ただ、彼も同じく自分をずっと見つめていて、瞬きしない瞳孔に息を飲んだ。
(‥‥どうすればいいの)
やはり、会おうと思うべきではなかったのだろうか。急に怖くなってきて後ずさろうとしていた。
「‥‥待て、待ってくれ」
『あ、あの、』
「いや、‥‥悪い。こないだの事でどうしてもお前と話したかった。」
『‥‥‥‥うん。』
話したい事、か。彼は何を話そうとするだろう。見当もつかない。
「‥‥綺麗だな。」
『え?』
「その浴衣」
浴衣?
急に話題が逸れて、緊張していた糸が一瞬緩和した。
そう言われて、自分が浴衣でこの場で来ていた事を自覚させられた。正直そういう事をすっかり忘れていたし、褒められている事に少し困惑した。
『あ‥‥、ありがとう。』
「似合ってる。」
一瞬ドキッとする。
彼は本心で言っているんだろう。
(‥‥相変わらず、ストレートだな。轟くんは)
彼はいい意味でも悪い意味でも正直に話すから、びっくりする事がたくさんあるが、それが彼の魅力の一つでもある。
私には持ってない部分が、うらやましい。
(‥‥だから、惹かれたんだろうけど)
そうなるのは、仕方なかったのかもしれない。でも、だからこそ厄介で仕方ない。
そんな彼の姿に、気持ちが動いてしまう自分の執着さが、
(‥‥今度こそ、区切りが付けられたら、いいのに)
私は、あの時、区切りを付けるつもりだったけど、結局曖昧になって逃げてしまった。あれでもう精一杯だったのもあるけど、どうか解決策を見つけられたらと願わざるを得ない。
この気持ちを終わりに向わしてくれる解決策が、