第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
縁日にアイツも来る。
どうにかしてアイツに会える機会が欲しいと願っている身としては、どういう形であれ、嬉しい事だった。
もし会えなかったらそれでもいい。また次会えるタイミングを考える。淡い期待だけ掲げ、明日、縁日に向かう事にした。
そして、その翌日。
俺は姉さんに事前に電話で遅くなると告げ、縁日が行われている神社へ向かった。思った以上に人が多く集まっていた。
『‥…こんな感じか。』
ふと辺りを見渡す。何とも言えない感情でその場に立っていた。
生まれてこの方、縁日に行った事のない人生。楽しそうに笑いあって過ごす、そんな当たり前な経験が出来ていない自分が浮いているように感じた。
(‥‥本当に、俺は何も経験していないんだな)
その事実が、憎しみ囚われ、正常ではなかった自分を思い出させた。
いくらエンデヴァーの息子だったとしても、ヒーローとしての才能があったとしても、過去の自分までは変えられない。
だからこそ、あの時置き去りにしたものを行動で少しずつ取り戻していくしかなかった。
ただ、
(‥‥酷だな)
それをアイツに押し付ける結果になるんだと考えると、やはりキツかった。
アイツに傷ついてほしくないと願いながらも、俺は彼女が望んでいない形で近づこうとしている。やり方を知らない俺に選択肢は残されていなかった。
(‥‥探さねぇと、)
罪悪感が芽生える気持ちを切り替える。
夜が深まっていくのを感じて、急ごうとしたときだった。
「!す、すみません!ぶつかってしまいましたわ!」
不意にぶつかってしまった相手がこちらへ謝罪をしていた。
『‥‥八百万、』
「え、と、轟さん!?」
浴衣を着ている八百万は驚いた表情でこちらを見ていた。
「珍しいですわね。どうしてこの場所へ?」
『‥‥別に、俺が縁日に参加したら悪いのか』
「それはそうですが、」
俺がこういう祭りに参加している事自体がびっくりだったみたいだ。まあそうかもしれない。
「轟さんも縁日に興味があって?」
『俺は…別に、まあ、用事があっただけだ。』
「あら、すみません。邪魔しちゃったみたいですわね。」
『いや、いい。それより、お前にも手伝ってもらいたいんだが』
俺は詳しい事情を八百万に話した。