第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
『‥‥あの、やめてくれませんか?』
力を込めてもなかなか離してもらえない。明らかに最初の態度と違って見えた。
ねっとり、じっとり、と見られている。
まさか、最初の会話からこういう展開になるなんて思わず、危機感を覚えた。
「結構可愛いなと思ってたんだよね~そのお友達が女かわかんないけどさ、せっかくだし良い思い出作りしようって」
『い、いりません!』
はっきりそう告げても、もう一つの手がゆっくりと首から肩をなぞるかのように触れてきた。
(…‥!!!!)
全身鳥肌が止まらない。背から冷や汗が出ていた。
「大人しくしとけば、優しくしてあげるって、」
精一杯力を込めて抵抗しても、全然動かないし、むしろそれも楽しんでるように見えた。
焦燥感に追われ、離れようとした勢いで草履が足から抜け落ちてしまった。無理に動かして痛い。それを拾う間もなく、連れていかれそうだった。その時だった。
「‥‥一条?」
『…‥あ、』
「‥‥は?誰?」
驚いた表情でこちらを見るその人は、紫色の髪と、濃い隈が目立つ自分の知っている人だった。
(‥‥し、心操くん)
「‥‥そいつのクラスメイトだけど、何してんの、アンタ」
「か、関係ないでしょ、」
「関係なくはないでしょ。明らかに強引に連れ出そうとしてるし、警察呼ぶけど?」
彼は携帯を取り出そうとすると、男の人は慌ててそれを奪おうとしていた。その隙に彼は何かを集中して、改めて男の人に向き合った。
「ーーーーー【ここから離れろ、そして近くの交番所まで行け。】」
洗脳、彼の個性によって男の人は意識が朦朧とした状態で私から離れて行った。
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男の人が離れて行く姿を確認した後、心操くんは手際よく携帯を取り出し、警察に電話した。「雄英学生に手を出そうとした人が今交番所に向かっている」という事を伝えてくれた。
『あ、ありがとう。それと、ごめん…個性使う羽目になっちゃって…』
「まあ、ああした方が確実だっただけだから。」
『それでも助かったよ‥‥急にああいう事になっちゃったから、戸惑ってて』
心操くんがたまたまあそこにいたから助かったけど、そうじゃなかったらどうなってた事やら‥‥
安心で思わず、息を深く吐いていた。