第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
(‥‥行っちゃった、)
仕方なくベンチに座る事にした。
祭りごとにはあまり慣れないせいか、私は人混みの光景を眺めるだけ精一杯だ。理央ちゃんは逆に自分のやりたい事だけ集中しているのか、あんまり気にしてない様子だったし、これぐらい普通の事なんだろう。
(…何、しようかな)
正直に言うと、祭りもほぼ初めてに近い自分にとっては、自分が何をしたいかというのがすぐ思いつかなった。
(‥‥一緒に屋台を周って考えた方がいいかも)
現時点だと、楽しむとはいえ、何があるのかをやっぱり目にしてからの方がいいのかもしれない。
(‥‥混んでるのかな)
数分経ったけど、まだ来てないのを見るに、やはりかなり列があるみたいだ。それも見越してここで待っていろと言われたのかもしれない。
大人しく祭りの風景を楽しもうと思っていた時だった。
「あれ、お嬢さん一人?」
金髪の柄シャツを着ている男の人がこちらへ声をかけてきた。服装の雰囲気からして20代前後みたいだ。
『‥‥いえ、友達を待っている最中です。』
「え~本当?なかなか寂しそうにしてたじゃん。俺もここに座っていい?」
『あ、はい。』
随分気さくに話しかけてきてビックリした。まあそもそもベンチは自分の所有物でもないので、座る事を拒否する権利もないが、
「ねぇ、彼氏待ちなの?」
『‥‥えっと、違います。』
「あ、じゃあ彼氏いないんだ?へー。」
どうしてそういう事聞く必要があるんだろう。正直あまり気乗りのいい話ではない分、何とも言えない感情が沸いてきた。彼氏がいるかどうかなんてそんなに重要な事なのかな。
「こんなに綺麗なのに、もったいないな、」
『………?』
一見普通の誉め言葉なのに、違和感を感じた。この人の視線がじっとりと上から下までジロっと見ていた。全身に鳥肌が立つ。
…もしかしてこの人、
「…お姉さんがよかったらだけどさ、この後俺とどっか行かない?」
『友達が待ってるんで、すみません。私はこれで、』
ここにいたらよくない気がする。そんな嫌な予感がしてその場を離れようとした瞬間、手首を掴まれた。と思ったら急に距離が近くなっていた。