第10章 話し合いと繋ぎ【夏祭り】
※一条視点
あの日以降、轟くんと極力避けるようにした。元々別々のクラスだったし、それ自体は難しくなかったが、たまたま休み時間に同じ廊下ですれ違った。
(……あ、)
目が一瞬合う。彼はじっと瞬きもせずに真っ直ぐ私に向いている。何気に存在感があった。
(......っ)
揺れちゃダメだ。そう気持ちを引き締めて目線を外した。
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授業の終わり頃、理央ちゃんから一つのチラシを渡された。内容は、縁日いわば夏祭りについてだった。正直自分の家族の件や轟くんのことで頭がいっぱいで、もうそういう時期だということに気づいていなかった。
クラスメイトの何人かも縁日についての話題で持ちきりだった。
「浴衣持ってる?」
『.....ないかも』
「じゃあせっかくだし買えば?最近だと安めにレンタルとかもできるし、」
縁日、か。あまり思い出に残っていないかもしれない。それに自分は昔のこともあって、そういうのを楽しむ資格なんてないと思っていた。
でも、
「まあ事情があるのはわかるけどさ、せっかくだし楽しむ方がいいでしょ」
『あ.....』
彼女は言葉にはしなかったが、意気消沈しているのを察知して気を遣ってくれたのだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。せっかくの厚意はありがたく受け取ろうと思う。
『じゃあそうしようかな』
「よし、じゃあ明日待ち合わせね。」
『明日?!は、早いね。』
「何言ってんの。縁日なんてあっという間に終わるんだから、早く行かないとでしょ」
了解した途端、すぐさま日程のスケジュールを決めていく様を唖然と見ていた。
「ちゃんとオシャレしてね。知り合いのヘアサロン紹介するから」
『そ、そこまでしなくてもいいよ!お金かかっちゃう』
「大丈夫大丈夫。うちの親、美容関係の仕事してるから、こういうの割安してくれるところいっぱい知ってるし」
『で、でも、』
「いいからアンタは明日を楽しむ準備だけしとけばいいの。明日は行くの確定だから。」
と言われてしまった。
まさかそこまで気を遣ってもらえるとは思わず、頭が下がる一方だ。
自分が楽しむということに罪悪感が沸くのは否めないが、せっかくの優しさを大切にしていきたいと思う。