第9章 好意と本音【期末試験】
「‥‥八百万」
馴染みのある声だったのか、轟くんも振り向いていた。そこにいるのは彼と同じクラスメイトである、八百万さんだった。会話の最中、まさかこんな所で会うなんて思いもしなかった。
さっきまでどうやってこの状況を切り抜けるか、深刻に考えてただけあって少し戸惑いの方が大きい。
「こんな所で会うなんて珍しいですわね。」
「お!!轟~こんなとこで何してんの?」
「ちょっと、上鳴、声でかいって、」
よく見れば、他に何人かと一緒にいる事が分かった。確か黄色い髪の人は体育祭で轟くんと同じペアだった人、黒色の髪の女の子も轟くんと同じ1年A組のはずだ。
こうしてA組を目の前にするのは学校以外だと久しいに近い。
緊迫したようなさっきとは一変、彼らの出現により、轟くんの空気も穏やかになっていた。
「…‥どこか行くのか?」
「あ、いや、普通に帰りの登下校だけど…‥って、」
轟くんとふつうに会話している中、私の存在に気づいたのか、A組の皆さんは急に焦りはじめていた。
「うわ、!ごめん!話し合い中だったか、」
「話の途中にごめんね!えっと、轟の彼女?」
「まあ、そうですの!?」
「マジ?!轟お前マジか!」
「い、いや、わからないけど、実際どうなの、轟。」
急に話が飛躍しすぎている気がする。どうやら、私が轟くんの彼女だと思われたみたいだ。八百万さんは目をキラキラさせているし、黒髪の女の子は興味ありげにこちらを見てるし、黄色い髪の子はなんだか盛り上がっている。
「‥‥こいつは、」
轟くんはその事についてどう思っているのだろうか。分からないけれど、でも少し困っている事は感じれた。
そりゃ、そうか‥‥
恋愛対象でもないのにそう思われても、彼にとっては迷惑でしかないだろう。
もしかしたら私が隣だから、強く言えないのかもしれない。
……ならば、
『‥‥ごめんなさい。轟くんとは昔の知り合いってだけで、それ以上でもそれ以下でもないんです。』
「‥‥!」
私の発言に驚いたのか、こちらを見つめる轟くんを他所に私はそうしっかり答えた。彼の発言を遮ってしまって申し訳なさもあった。でも、
私自身、舞い上がってるようなこの雰囲気に耐えられる気がしなかったのだ。
ありもしない可能性なんて惨めになるだけなのだから、