第9章 好意と本音【期末試験】
※一条視点
瞼を開くと、まるで夢の続きかのように、目の前に轟くんがいた。
『‥‥‥ん、あ、れ、』
「‥‥‥一条、」
『‥‥え…っと、これも、夢、』
あまりに現実味がなくて、そう思えてしまった。しかし、
「‥‥‥一条、違う。ここは現実だ。」
夢にしては声にリアル感があった。そして、しばらくしてこれは現実であるという事を知った。
『‥‥げん、じつ‥‥えっ、ホン、モノ?』
思わず反射的に体が動き、距離を取ってしまった。あんな夢を見た後だからというのもある。
どうやら、お茶子ちゃんから聞いてこちらに来てくれたらしい。そんな事、わざわざしてくれなくてもいいのに、本当に轟くんは優しいんだなと改めて思った。
(‥…この、タイミング、で、)
目の前に轟くんが現れるだなんて、まるで自分の思っていた事に惹きつけられたみたいだ。
『あ‥‥そう、だったんだ、‥‥あの、』
彼の顔がうまく見れず、視線を逸らしそうになる。あんな夢を見てしまった事への罪悪感だった。
彼の意志に関わず、自分で彼の幻想を作り出し、都合のいい幸せを見ていた。そんな夢を見ていたと知られたくなかった。
幸い、リカバリーガールがきてくれたおかげで、間の悪い空間が緩和する事が出来た。
「今日はもう遅い。送ってやりな。」
『え…‥』
リカバリーガールは私の身を案じてか、轟くんと一緒に帰るように促している。ただ、自分の心中は穏やかではなかった。
(‥‥待って、心の準備が、)
せめて、気持ちを落ち着かせてからにしてほしい。という自分の願いとは裏腹に轟くんはずっとこちらを見つめている。いつもの無表情の顔で、
一緒に帰る事はもう決定事項みたいだ。
「‥‥行くぞ。」
『‥‥あ、ま、待って!』
自分の身の支度を済ませるのを確認すると、彼は先に先頭に立って歩き始めた。彼の後に続いていった。