第9章 好意と本音【期末試験】
その後は、沈黙がずっと続いていた。
彼女が発した言葉が夢の中の一言だとわかっているが、答えが分からないまま、お預けされているような気分だった。
未だに鼓動は高まったままだ。
(‥‥‥‥好き、か。)
どういう状況で言っているのか分からないが、言われて嫌な気はしなかった。
そういった感情を向けられる事に負担を感じていたあの頃とはもう違うから、というのもあるが‥‥
それ以上に何か理由があるのは明白だった。
「‥‥‥ん、あ、れ、」
『‥‥‥一条、』
そう思っている最中に、彼女の瞼が僅かに開き始めた。
「‥‥え…っと、これも、夢、」
状況がまだ理解できていないのか、彼女はそう言葉に出す。
まだ夢の中だと思っているのか。
『‥‥‥一条、違う。ここは現実だ。』
「‥‥げん、じつ‥‥えっ、ホン、モノ?!」
俺の存在にようやく気づいたのか、途端に目が覚めたかのように、動きが素早くなる。周りをキョロキョロ見渡しては改めて俺の顔を見るなり距離を置きはじめた。
‥‥なぜ距離を置かれた?
「‥‥えっと、な、なんで、轟くんが‥‥ここに?」
『‥‥お前の様子を見に来た。麗日からお前のこと聞いた。』
「あ‥‥そう、だったんだ、‥‥あの、」
どこか居心地悪そうに俺の様子を伺っている彼女に、若干の不服さを感じ、口を開けようと思った瞬間、
「おや、起きたのかい?」
ドアの開く音と、リカバリーガールの声が同時に聞こえた。電話を終えて帰ってきたらしい。
「あ、はい。もう体調も少し良くなったので、戻ろうかと‥‥あれ?心操くんは、」
「あの子はもう出ていってるよ。元々長居する予定ではなかったからね。」
「そうだったんですね。後でお礼言っとかないと…‥」
『‥‥‥‥』
心操くん?
俺以外にここでコイツに会った奴がいたって事か?
『誰かいたのか、』
「あ、…うん。私が寝てる間に、リカバリーガールに報告してくれて、」
『‥‥そうなのか。』
「うん、‥‥あ、轟くん、今日は、来てくれてありがとう。」
そう言った後、俺への視線を一瞬逸らしていた。
そのわずかな仕草が目に付いた。