第9章 好意と本音【期末試験】
一人残された自分は、咄嗟にベッドの方へ目線を落とした。アイツがちゃんと寝ているのか単純に気になって、思わずそのカーテンを開けた。
横になって目を瞑っている彼女の姿があった。
「‥‥‥ん、」
夢を見ているのか、何回か口が微妙に動いているのかが気になるが、ちゃんと寝ているみたいだ。
ベッドに横になる彼女を他所に、じっと顔を見つめる。
(‥‥‥そういえば、コイツの寝ている姿は初めて、か)
学校でしか会った事がないので、当然と言えば当然だが、こういう彼女の姿を見るのは新鮮とも言える。
普段そこまで気にしたことはないが、こうしてみると、自分とは全く違う異性である事がわかる。
『‥‥‥‥』
肩にかかっている髪が少し散らかっていた。目の意識そのままに、その長い髪にゆっくりと触れていた。
彼女の髪が自分の手に収まっていく。
(‥‥‥髪、なげぇな、)
この状況をどこか他人事のように思いながら、柔らかい感触を感じた。
「‥‥‥焦凍、くん、」
『‥‥‥、!』
まるで消えそうな声で自分の名前が呼ばれ手が一瞬止まった。俺の行動が彼女を起こしてしまったのかと思ったが、彼女は目を瞑ったままだった。
(‥‥‥寝言か、)
しかも、普段あまり言う事がない下の名前で言われた事にびっくりした。
思えば、幼少期以来、だった。
『…‥‥‥‥お前は、何を見てるんだ』
どうして自分の名前が呼ばれたのか、その理由が無性に気になった。
夢で会うくらいなら、目の前にいる俺に会いにくればいいのにと思うぐらい、彼女は頑なに夢の中から目を覚まさない。
そして彼女の口が開く。
『‥‥大好き、だよ、‥‥焦凍くん』
一瞬思考が停止した。
そして頭の中で過る。中学の頃、アイツが俺に告白してきた事。忘れていたわけじゃないが、今更その事を思い出した。
あの時は、驚きはしたものの、それ以上の感情が芽生えることもなかった。
そのはず、だったが、
(‥‥‥これは、なんだ、)
自分の心臓が高鳴っている。アイツを抱きしめようとした時に感じた感情によく似ていた。