第9章 好意と本音【期末試験】
相澤先生の指摘にもあったが、話し合いが不足していたのは事実だった。
これは戦闘能力の良し悪しの問題ではない。相手の状況を察知して見抜き、確認し、対話する事ができなかったのは、自分の性格ももちろんあるかもしれないが、それ以外にも恐らく閉鎖的な空間の中で個性訓練した故の反動だ。
最近になって母と兄さん、姉さんと話す機会が増えてきてはいるものの、人との関わり、距離感みたいなのが弱点ではある。いずれにせよぶつかる問題だった。
そんな自分の課題を振り返りながら、制服に着替えて、教室に戻る途中だった。
「沙耶ちゃん、大丈夫かな…」
「‥‥お茶子ちゃん、どうかしたの?」
「あ‥‥うん、ちょっと知り合いの子が、」
前で歩いている麗日と蛙吹の会話の中に、自分の知り合いの名前が出てきて思わず反応した。
アイツとはあの出来事以来、会えていなかった。
『一条がどうかしたのか、』
「轟くん、沙耶ちゃんの事知ってるの?」
『ああ、』
「実技試験の前に沙耶ちゃんに会ったんだけど、顔色が悪くて、心配で、」
『‥‥それで、アイツ、帰ったのか?』
「保健室に行くって言ってたよ。仮眠するって」
(…‥そうか、)
彼女の家族の影響なのか、その他に何かあったのか、わからない。
ただ、いつの間にそんな事になっていて、それを自分が知らない事実が無償に嫌だった。
『‥‥俺が代わりに見てくる』
「え、?!」
驚きを隠せない麗日を他所に、自分の足は保健室に向かう。そして、そしてやっと辿り着き門を開くと、
「‥‥おや、どうしたんだい?」
リカバリーガールがそこにいた。
『一条、いますか、』
「もしかして、あの子に用かい?生憎寝ているよ。」
カーテン越しに人の面影が見える。そして、デスクにあるメモに目をやると、一条の名前と、使用理由が書かれていた。
しばらくすると、携帯の着信音が聞こえた。
「もしもし?‥‥その話かい、‥‥悪いけどちょっと席を外すよ。」
電話に出た彼女は、業務の話だからという事で、小声で保健室から離れていった。
静かな空間の中に残された。