第9章 好意と本音【期末試験】
※轟視点
あの出来事が起きてから時間は経過した。
ステインとの戦い、俺たちの活躍は公表しないという事になり、何もなかったかのように学校生活が始まった。
丁度、筆記試験が終わり休憩時間に入っている最中だ。
一人で休憩している中、アイツの事が頭に思い浮かぶ。
弱弱しく泣いている姿を見た瞬間、自分がどうしたいか思うよりも先に彼女を抱きしめていた。
何かしてあげたかったのは嘘ではない。
でも、どうしてそこまで自分の感情が動かされたのか、今でもよくわからなかった。
(‥‥‥)
それに、特別、あの出来事だけの話ではない。彼女の事を知りたいと、彼女の祖母に話を聞きにいった時もそうだ。普段の自分にしては、かなり他人の事情に踏み込もうとしているのは明白だった。
今まで感じた事のない感情が芽生えているのは確かだ。
それが何なのか、
俺は知りたい。
「あれ、轟くん?」
『…‥緑谷、そろそろ実技か?』
実技のための移動時間が迫ってきたのだろう。考えるのをやめて実技試験のために頭を回す。
「お互い頑張ろうね。」
『‥‥ああ、』
緑谷との会話を終えて歩いていく最中、自分と同じ推薦入学者である八百万が目に入ってきた。
何か考え事をしているのか、さっきから歩みが遅いのが気になった。
『‥‥どうかしたのか、』
「い、いえ!なんでもないですわ。」
『そうか、ならいいんだが、』
「ええ、」
当の本人は大丈夫らしい。もしかしたら、実技という事もあってそれなりの策を頭にインプットしているのだろう。それが八百万の長所でもある。
声をかけるまでもなかったか。
ドサッ
(‥‥‥‥‥‥)
そう思うのと同時に、素早い足音が聞こえた。
確認のため、振り返ってみたが、誰なのかわからなかった。
誰かが俺を見ていたような気がした。
その後、実技試験が終了した。
八百万と2ペアで相澤先生との戦いだった。思えば、移動の時から八百万は悩んでいたのだろうと後で思い知った。
ー女の子を慮るのは立派だが、もう少し話し合っても良かったんじゃないか?
相澤先生が言った言葉が突き刺さった。