第9章 好意と本音【期末試験】
(…‥でも、)
家族での優しい時間、轟くんとの優しい思い出、
何もかも満たされていくような感覚があった。
都合がいいとわかっていても、彼の手を振りほどくことはできなかった。
夢だからこそ、今この瞬間があり得るんだ。
(…‥…ならば、)
今だけは、この夢に浸ろう。幸せなこの時間に浸ろう。
『‥‥うん、一緒にいるよ。』
「‥‥本当?」
『‥‥うん。』
私がそう答えるとニッコリと笑ってくれた。すると、また場面が変わり始める。
(…‥あ、)
ここは、桜の木の下だった。
中学校の頃の制服を着ていて‥‥背丈が伸びた轟くんがいた。
もしかして、ここは‥‥
私が彼に告白した場所、なのか、
『‥‥轟、くん、』
「…‥焦凍、」
『‥‥え?』
「そう呼んでいただろ。」
そう、だったっけ‥‥
でも、そっか…夢の中だから、あり得るのか、
『‥‥焦凍、くん』
「‥‥ああ」
中学生の頃は、名前呼びなどあり得なかったし、こうして笑う轟くんだって滅多に見ていなかった。
「ずっと、一緒にいよう。」
『…‥え?』
「俺もお前が_____」
その後の言葉に驚いていると、抱き締められた。優しく。
まるで、中学の時に断られたのが嘘のように、
優しい記憶に塗り替えようとするかのように、
『‥‥‥‥』
でもわかっている。
目の前にいる焦凍くんは、幻想にすぎない。
私の現実は私自身がよく知っているのだ。
中学の時、振られた。その事実を忘れてはいけないんだ。
それでも、
私は、彼の背中におそるおそる手を伸ばした。幻想の温もりに浸っていた。
『‥‥大好きだよ、焦凍くん』
現実だったら、絶対あり得ないけれど、
ここなら真っすぐそう思えた。
幸せな、時間だった。
たとえ、夢の中だとしても、
この瞬間を感じられたのなら、これ以上はもう望まない。
(‥‥もう、充分。)
夢の時間を噛みしめながら、私は決心した。
彼にはっきりと伝えよう。
もうあなたに会わないという事を、