第9章 好意と本音【期末試験】
ーいきなりごめんね。えっと、久しぶり、
ー私のこと覚えてるかな?…あの時は、ごめんね、
入学式の頃、彼に会った時、過去の事を謝りたくて声をかけた。
ー悪い、記憶にねぇ
ーそもそも、お前のこともあまり覚えてない
ーそれで、要件はそれだけか?
あの頃の轟くんは、雰囲気が重く感じていた。怒りと悲しみを抱えていたし、一人でいる事が多かった。
けれど、今は違う。
たくさんのクラスメイトに囲まれながら、彼がクラスメイトに向ける顔は、憑き物がなくなったような、自然な表情をしていた。
「お互い頑張ろうね。」
「‥‥ああ、」
彼と話しているのは‥‥緑谷くん、
体育祭の時に、轟くんを救ってくれた人だ。
そんな緑谷くんの話の後、彼の視線が別の方へと向くのがわかった。
(…‥あ、)
その視線の先の彼女に声をかけていた。
「‥‥どうかしたのか、」
「い、いえ!なんでもないですわ。」
顔は知っている。確か…
八百万さんだ。
確か体育祭のチーム戦でも一緒だったはずだ。直接彼女と会話した事はないが、よく積極的に委員会に参加しているのを見ていた。
(‥‥背、高いし、綺麗。)
素人の感想みたいだ。でも、素直にそう思った。何せ、轟くんの隣にいても何も遜色がない程の存在感を放っていた。流石ヒーロー科というべきなのだろうか。
「そうか、ならいいんだが、」
「ええ、」
実際、轟くんも負担なく彼女と接しているようだった。なんとなく、その二人の存在に目が離れずにいた。
「あれ?沙耶ちゃん、」
『あ…』
離れられずにいる自分の存在に気づいたのか、声をかけてくれたのはお茶子ちゃんだった。
「‥‥顔色悪いけど、どうしたの?」
『…あ、ちょっと体調悪くて…』
「えっ!大丈夫なん?!」
『あ‥‥うん、大丈夫、これから保健室に行って仮眠してくるから、』
彼女との会話でハッとした。そうだ。自分は、これから行くところがあったじゃないか。
『‥‥実技頑張ってね』
「え?あ…」
流石に今から実技試験を受ける人とこれ以上長話させるわけにもいかず、短めに話しを済ませてしまった。せっかく声をかけてくれたのに申し訳ない気持ちもある。
後でちゃんと謝ろう。