第8章 距離感と興味【原作編(職場体験)】
※轟視点
医者の先生と話があると言ったきり、彼女の真意がわからないまま、その場を離れていった。
(‥‥大丈夫なのか、)
ずっと俯いていたし、震える手を握り締めている姿を隣で見ていた。会話した時の一条は、正常ではなかった。家族が倒れたとなればそうなってしまうのも無理はないだろう。
(アイツは‥‥先に行ってて大丈夫と、と言っていたが、)
それを聞いて、「わかった。」と納得できるはずもない。
やはり後をついて行く方がいいと自分で判断し、足を動かそうとしていた。
(‥‥‥‥)
正直、そんな自分に驚いている。
もちろん、過去の事でアイツとの関係を改めて知った今、あの時、俺がアイツに救われたように、今度は俺がアイツを救いたいと思っているのは、事実だった。
ただ、自分の想像以上に心が動いているのは、予想外だった。
=====
後をついて行ったものの、実際は彼女の行き場を見失ってしまった。
(‥‥どこに行った?)
とりあえず、見当のつく所へ行こうと思い、彼女の祖母の病室の近くへ向かった。
そんな中、病室から出てきた一条の姿を見つけた。
「‥‥轟、くん、」
『‥‥終わったのか?』
「え?‥‥うん」
表情は暗かった。なんとか会話はしているものの、目線が俺を見ていなかった。
「轟くん、おばあちゃんの報告してくれてありがとう。」
『いや、』
「そんな事ないよ、‥‥あの、今日は、ちょっと疲れちゃってるから先に帰るね。」
最後の会話までもずっと目線が合わない。どこが儚げな表情に少し危機感を感じ、そのまま帰ろうとする彼女を思わず引き留めようと肩を掴んだ。
『‥‥っ待て、』
彼女をこのまま帰させると後で後悔しそうな気がした。
「‥‥用事?‥‥それなら後で、」
『帰る前に聞かせてくれ。お前、本当に大丈夫か。』
「‥‥大丈夫、だよ。」
そう言って薄く笑うが、力が弱々しい。疲れている状態なのは見て取れるが、それ以上の事のような気がしてならない。
「ちゃんと休めば治るよ‥‥いつものことだから、」
『そういう話じゃねぇ』
「‥‥え?」
体調の話じゃなくて、
『何か我慢してんじゃねぇのか、』
お前の本心はどうなんだ。