第3章 環境の変化【過去編】
数年後、母から離れ、父は仕事の影響で家に来れないことを考慮し、しばらくおばあちゃんのお家に預かることになった。
「それじゃあ、おばあちゃんによろしくな」
『.....うん』
本当は行ってほしくなかったが、父に心配かけないように平気を装った。我慢することは慣れているから大丈夫と自分にいい聞かせて、父を見送る。
新しい環境として移った場所は昔の一軒家だった。門を開けると、そこにはおばあちゃんが立っていた。
『…お世話に、なります』
「そんなに固くならなくても大丈夫だよ。ゆっくりしてね」
『…はい』
優しい笑顔でそう呟くおばあちゃんに少し安心するも、慣れない生活がこれから待っていることを考えると不安が大きかった。
荷物はすでに手配されており、新しい自分の部屋にあらかじめ整理されている痕跡が残っていた。私は自分の寝床に体を預けると、今までのことを思い出していた。
あの後、母が別居してから数年も経たず、私が10歳になった時、正式に父と母は離婚することになった。正直あまり覚えていないが、最後に母に質問した事は覚えている。
『……お母さん、私の事、好き?』
ほぼ自暴自棄の状態で聞いていた。自分が予想する答えではないことを願って聞いた。
「……どっちでもないわ」
冷めた表情のままそう呟く母がいた。
『……っ…』
その事を思い出し、思わず目に涙がこぼれていた。涙を流すなんて自分はなんて弱いんだろう。そう自己嫌悪しても涙を止める方法なんてわからなかった。
(今日だけだから。泣くのは今日だけだから…)
明日は新しい生活に慣れるために頑張らないといけないんだから。そうして受け入れて前に進むしかないのだから。
春が訪れ季節が桜で満ちる頃、私は遥々中学生になり、生まれてはじめて制服を着ることになる。綺麗にアイロンをかけてくれたおばあちゃんに感謝し、鏡の中の着飾った私を見る。
『‥‥』
綺麗なセーラー服な半面、自分の顔はみすぼらしい。顔が死んでるかのようだ。
「まあよく似合ってるわ。かわいい。」
『…ありがとう』
おばあちゃんは笑ってくれた。それでいいか。
『行ってきます』
「気を付けるんだよ」
慣れない靴の音を鳴らしながら外に出ると、辺りは綺麗な桜で満載だった。